米国経済は予想外に堅調なようだ。昨日発表された9月の消費者物価指数(C P I)は前年比2.4%上昇、前月比では0.2%上昇だった。市場予想は前年比が2.3%、前月比では0.1%の各上昇だった。いずれも若干上回ったものの、予想の範囲内に収まった。先週末に発表された9月の雇用統計では非農業部門の新規雇用者数が25万4000人増で、予市場予想の14万人増を大幅に上回った。失業率も前月の4.2%から4.1%に低下した。労働市場が予想外に堅調に推移する中で。C P Iの発表が注目されていたが、インフレは想定の範囲内に収まったというわけだ。これだけなら万々歳だが、C P Iと同日に発表された先週の新規失業保険申請件数は前週比3万3000件増の25万8000件。週間の増加幅としては2021年7月以来最大となった。市場予想は23万件だった。要するに雇用も増えたが失業保険の申請件数も増えているわけだ。そんな中で物価は引き続き下落傾向を示している。要するにこの状況は良いのか悪いのか、金融当局や学者、市場関係者、政府、メディアなどが参加して侃々諤々の議論が続いている。
統計には様々な要因が隠されている。失業保険の申請件数が増えた要因についてブルームバーグは「米南東部を直撃したハリケーン『へリーン』や、米航空機大手ボーイングの一時解雇の影響でノースカロライナ州やフロリダ州、ワシントン州で(申請件数が)大きく増加した」と指摘する。労働市場の流動性が高い米国では自然災害や大企業の解雇などによって統計が左右される。雇用保険申請件数の増加はこうした一時的要因が絡んでいると解釈されている。これも統計解釈の一例に過ぎないが、新規雇用が大幅に増加した中で失業保険申請件数が増えた背景は納得できる。連邦準備制度理事会(F R B)は9月17日〜18日に開催した公開市場委員会(F O M C)で、市場の大半が予想していた0.25%ではなく0.5%の大幅利下げを決定した。2年前に利上げのタイミングで遅れをとったパウエル議長が、景気後退の兆しを嗅ぎとって先手を打って労働市場の悪化を防止するために予防的利下げに踏み切ったと評価されていた。9月雇用統計に早くもその結果が現れたということになる。
教科書的に言えば金融政策の結果がそんなに早く統計に現れることはない。失業率が低下する中で新規雇用が増え、一方で新規失業保険の申請件数が増える。一見矛盾しているが、これが経済の実体だろう。だから統計の解釈が重要になる。統計を重視する金融当局が統計をどのように解釈するか、これが極めて重要になる。おそらくここに金融当局の最大の腕の見せ所だろう。結果が悪ければ後手と批判され、予想通りの効果が表れても大して評価されることはない。これが金融当局を取り巻く雰囲気だ。それでもF R BやE C Bなど欧米の当局者はよく議論する。賛成も反対も、データの解釈も公言して憚らない。市場経済をベースにしているのだから当然と言えば当然なのだが、逆にいうと日本の金融政策を見ていて気になるのは議論が少なすぎることだ。石破総理は「いまは金利を引き上げる環境にない」と、総理になった途端に金利上昇容認発言を撤回する。なぜ?理由は説明しない。日銀の審議委員が何を考えているのか、一般庶民にはよくわからない。実体経済も気になるのだが、日本は何かにつけ議論(本質的な)が少なすぎるような気がするのだ。
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