総選挙の投票日まで残すところあと1週間。与野党とも今週が最後の正念場だ。勝負の決め手は政策より軍資金の多寡か。石破総理はここで政策活動費を投入するのかしないのか。「使わない」との約束は選挙が終わっても検証できない。政治不信の解消を目指す総選挙だが、正直いって政治の浄化など期待すべくもない。選挙後の経済政策も気になる。総理は総選期間中も「国民の懐を豊かにする」と公約していたが、どうやって豊かにするのか具体論はまるでない。物価上昇を上回る賃上げなど与野党とも同じセリフを繰り返している。野党が主張する消費税減税も一つの手段だ。公約に掲げる野党が一つになればいいのだが、どの野党も統一戦線にはまるで興味なし。国民よりも党利党略を優先する。政治が信頼できないのは裏金疑惑だけではない。経済政策も国民不信を加速する。信頼回復という言葉が虚しく響く政治情勢が続く。

物価を上回る賃上げはどうやって実現す流のか。消費税減税は無理だろう。だとすれば円安を止めるしかない。植田日銀総裁が就任して異次元緩和は軌道修正され、「金利のある世界」が動きはじめた。利上げを通して経済が成長し、賃金が上がる環境を作り出せばいいのだ。とはいえ、これを実現するのは並大抵のことではない。裏金で失墜した自民党が信頼を回復するのにかかる時間はとてつもなく長い。「金利のある世界」で経済成長を実現するにも、これと同じぐらいの時間がかかるかもしれない。異次元緩和の張本人である黒田前日銀総裁はこうした状態を称して「ノルム」と表現した。googleで検索すると「物価や賃金の上昇率について世間相場のような、皆が当たり前のように考える水準が形成され、それが実現していくこと」とある。長い間同じ状態を続けるとそれが当たり前のことのように「皆が思い込んでしまう」のだ。

日本経済に当てはめればノルムの極めつきがデフレだ。石破総理は就任のインタビューで「(デフレの懸念は残っており)いまは金利を上げる環境にない」と発言している。総裁選では「金利のある世界」を容認する発言をしていた。それが就任した途端に手のひら返しだ。ここが気にいらないのだ。庶民がいま苦しんでいるのはデフレではない、インフレなのだ。インフレを上回る賃上げを実現するためにはデフレ脱却を目指すのではなく、インフレの抑制が必要になる。いまのインフレは経済成長が原因ではない。円安で輸入物価が高騰し日本中でインフレを加速しているのだ。これを止めには円安を防止するしかない。ゆっくり時間をかけて「金利のある世界」を実現し、なおかつ、それでも経済が成長する基盤を作るしかない。だが、円相場は現実的には再び円安に振れはじめている。総選挙が終わってもこの傾向は続くだろう。インフレ率を下回る賃上げしか実現できない国。どうするNIPPON。