国民民主党が提起している103万円の壁問題は、単に非課税水準を引き上げれば済むという問題ではない。税金や年金、健康保険に医療費など、すべての負担をひっくるめた国民負担率をどうするかという問題に帰結する。政府・与党はこの30年間、国民が負担する税金と社会保障費の比率を一貫して引き上げてきた。引き上げてきたと言っても伸び率は毎年1%前後にとどまっており目立たない。国民も負担感をほとんど感じない程度の増加率だ。言ってみればステレス負担増と言っていいだろう。だから政府批判も起こらない。選挙のたびにニコニコしながら自公の連立政権に投票してきた。この間デフレが続いたわけだから、生活は真綿で首を絞められるように苦しくなってくる。にもかかわらず「デフレだから」と皆が諦めていたのではないか。そんな中で国民民主党が声を大にして「手取りを増やす政策」を公約に掲げ、103万円の壁撤廃を叫び続けている。これで多くの人が気づいた。「我々は騙されていた」。
財務省がまとめた「国民負担率の推移」という表がある。税金(国税+地方税)と社会保障費(年金+健康保険など)を含めた国民負担率の割合を時系列で示したものだ。今から30年前の1994年の負担率は34.9%だ。これが2024年には45.1%になっている。この30年間で負担率は10.1%増えている。これに対して賃金はどのくらい伸びたのか。内閣府がまとめた「一人当たり実質賃金の推移」という表がある。これを見ると1991年を100とした国民一人当たりの実質賃金の伸び率は、2020年ベース(29年間)で103.1となっている。要するに29年間で3.1%伸びたわけだ。ピッタリ期限があっていないが、この30年間で国民負担率は10.1%増え、実質賃金の伸びは3.1%にとどまっている。国民の生活水準は差し引きで7%低下したことになる。主要国の一人当たり実質賃金の伸び率はこの間、米国が46.7%増、英国が44.4%増、ドイツが33.7%増、フランスが29.6%増だ。日本の一人負け。
にもかかわらず政府・自民党は103万円の壁見直しについて検討するとも言わない。財務省と総務省は非課税枠を178万円に引き上げると国税で7兆円〜8兆円、地方税で4兆円くらい税収が減ると強調する。これに新聞社やテレビ局出身の“ご用”コメンテーターが同調する。経済学者も評論家も口ぶりが鈍る。挙げ句の果てに玉木代表の不倫騒動については断定的に非をなじる。おそらくこの人たちは権力者に忖度することしか考えていないのだろう。こういう人たちはさておき、国民負担率の水準をどうするか、実は簡単な話ではない。単純に答えはでないだろう。デフレ脱却を目指す以上、負担率は引き下げざるを得ない。その場合財源をどうするか。玉木氏は「財務省の意識が慎重すぎる」と強調する。負担率を引き下げれば経済が活性化し、税収が増える。そういう展望を持つことが経済の好循環を後押しする。好循環とはそういうことだ。政府・与党は「知らぬふり」では済まされなくなっている。
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