次期大統領に内定しているトランプ氏の動きが迅速かつ刺激的だ。次期政権の閣僚を次々に指名、主要な政策も前倒し気味に発表している。以前から「就任初日は独裁者になる」と公言しているが、人事も政策も完全に“前のめり”の印象をうける。昨日は注目の関税政策を発表した。メキシコ、カナダからの輸入品に25%、中国には追加で10%の関税を課すと表明した。公約といえば公約だが、関税を課す理由として挙げたのが社会問題となっているフェンタニル対策だ。NHKは「トランプ氏は25日、SNSの投稿で、メキシコやカナダからかつてない水準で犯罪や薬物が流入しているとして、大統領就任日に出す多くの大統領令の1つとして、両国からのすべての製品に25%の関税を課すために必要な文書に署名する意向を明らかにしました」と伝えている。MAGAを実現するための戦略かと思っていたが、そうではないようだ。犯罪や薬物流入阻止にむけたディールなのだ。トランプ戦略、単純ではないようだ。
トランプ氏は選挙戦のなかで次のような発言をしている。「私にとって辞書の中で最も美しいことばは関税だ。関税を賢く使う」(NHK)と。要するに貿易収支だけを問題にしているわけではない。その第一弾がフェンタニルというわけだ。原料の大半は中国産、カナダやメキシコで加工され米国に大量に流入している。トランプ氏は「(この3国は)問題を簡単に解決する絶対的な力を持っている。彼らがこの力を行使することを要求する」と主張している。メキシコとカナダの関税には「犯罪や薬物の流入が止まるまで」という条件がついている。メキシコとカナダが犯罪や薬物対策を強化すれば関税は付加しないとも読める。これは経済的というより政治的な要求だ。国際政治を考える上では政治も経済も一緒のこと。だから“どっちだ”と言う発想自体に意味はないかもしれない。とはいえ、ロイターはカナダのトルドー首相が早速トランプ氏と電話で会談したと伝えている。水面下の駆け引きはすでに始まっている。
ところでこの動きをみながら日本はどうするのだろうと気になった。NHKは「自動車メーカーはメキシコの工場をアメリカ向けの重要な生産拠点と位置づけていて、関税が引き上げられれば、輸出戦略の見直しを迫られる可能性もあります」と影響の大きさに的を絞った懸念を伝えている。犯罪にも薬物にも関わっていない日本。何を材料にトランプ氏と交渉するのか。石破総理だけではない。現政権にトランプ氏との人脈はほとんどない。問題は単なる貿易収支ではなさそうだ。にもかかわらず日本のメディアも財界も経済面への影響に特化した問題意識しかないようにみえる。極端なことを言えばメキシコで生産した日本の自動車を関税の対象から外せば、犯罪も薬物を米国に流入しなくなると主張すべきなのだ。そんな発想は日本の支配者層にはまるっきりないだろう。黒字か、赤字か、あるのはそれだけだ。原料を米国に輸出するなと、中国に直言もできないだろう。そもそも戦略がない。さてどうする石破総理。
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