きのうに続いて「103万円の壁」について考えている。現行の所得控除103万円を国民民主党が主張する178万円に引き上げると、国の税収が7.6兆円減ると財務省が“粗い”試算を出している。うち4兆円程度が地方関連の税収減とされる。こうした試算を受けて全国知事会の村井嘉浩会長(宮城県知事)は以下のようなコメントをした。「私が総理の立場なら首を縦に振らない」。国の試算を受けて宮城県も県への影響を機械的に試算した。それによると県と市町村分の住民税関連で約620億円、地方交付税分と合わせ県全体では計810億円の減収になるという。これを受けて村井知事は「たちどころに財政破綻(はたん)するだろう」と、国民民主党の主張に強い懸念を示した(以上、コメントも含め11月13日付朝日新聞Web版より引用)。おそらく知事会全体が同じような認識だろう。横並びが尊重される日本の現状から推測すれば、結論は誰が考えてもそうなる。

本当に「たちどころに破綻する」のか。横並びでみんなが同じ認識を示すことに、生理的に反発したくなる。これが天邪鬼の真骨頂だが、「そんなことはあり得ない」のだ。手はじめに総務省のホームページを探ってみた。平成6年版の「地方財政白書」(令和4年度決算)をみると、「積立金現在高の状況」という表がある。簡単にいえば自治体の預貯金だ。決算で黒字が出た場合、一定の基準に則って独自にその資金をプールできる。基金には財政調整基金、減債基金、その他特定目的基金の3つがある。勝手に使えるわけではないが、県の資産であり緊急避難的に活用できる。令和4年分だから少し古い。都道府県と市町村あわせた基金残高の総合計は27兆6360億円だ。地方の減収分4兆円の7倍近い蓄えがあるのだ。日本は世界に冠たる資産大国だが、御多分に洩れず地方もその恩恵に浴しているわけだ。村井知事の反論が聞こえてくる。「(減収は)その先もずっと影響が続くのだ」と。

国民民主党の玉木代表曰く「減収分は無くなるわけではない。国民の懐に入るのだ」。その通りだ。国民の懐に入ったお金がすべて消費にまわるとは言わない。だが、そのうちのかなりの分は確実に購買力に転嫁する。なんとなれば国民の多くは買いたいものも買わずに我慢を強いられているからだ。デフレの要因は何か、ひとことで言えば需要不足だ。所得控除の引き上げはデフレ脱却に向けた需要喚起策でもある。政府・与党がこの30年怠ってきた国民に寄り添う施策だ。財務省も総務省も、全国知事会の村井知事も国民・県民を無視して財政の健全化だけを主張している。日本の最大のテーマはデフレからの脱出だと政府、与党は長年にわたって主張してきた。そういいながら自らデフレ政策を推進している。金融資産も人材資源も豊かで豊富な日本。政治リーダーのたちの“貧素”な発想が、この国を三流国に貶めようとしている。もうそろそろ古い政治家には退出してもらいたいものだ。ちなみに宮城県の基金残高は県分だけで3921億円(令和4年度末現在)、減収分は5年賄える。