トランプ関税で世界が揺れている。ディール外交のロケットスタートといったところか。トランプ氏の「辞書の中で最も美しいのは『関税』という言葉だ」という言い回しは有名だ。選挙中に何度も繰り返していたし、同氏を象徴する言葉でもある。きのうの衆院予算委員会、トランプ氏の「関税」に引っ掛けて、自民党の塩崎彰久氏が石破総理に質問した。「総理の一番好きな言葉は何ですか」。しばらく考えて総理が答える。「やっぱり『ふるさと』。故郷という字を書く」(共同通信)と。日米トップの好きな言葉比べ。2人とも国際政治を動かす政治家だ。どちらが良いとか、悪いとかいうつもりはない。強いてあげればトランプ氏は叙事的、対する石破総理は叙情的だ。両国の国民性を代弁しているのかもしれない。今週末には両首脳がホワイトハウスで会談する。「感情」に訴える石破総理は、生き馬の目を抜くトランプ氏の「勘定」に一矢報いることができるか。見ものだ。
総理が答えたあと塩崎氏は「まさに石破カラー、素晴らしいチョイスだ。郷土愛を大事にしていただきたいと持ち上げた」と、共同通信は付け加えている。相変わらずの忖度か、政治家は言葉遣いに気をつけた方がいい。いつもの癖で余計な思いが頭の中で交錯する。そんなことはどうでもいいのだが、叙事的であることも叙情的であることも、どちらも必要だ。例えば聖徳太子は「和をもって尊し」と17条憲法の第1条に書いた。考えてみればこれだって極めて叙情的だ。古代日本も諍いの絶えない国だったのだろう。停戦条件をきちっと取り決めたわけではない。「仲良くしろ」と情に訴えたのだ。欧米をはじめ世界の大勢は「目には目を、歯には歯を」だ。トランプ氏が特に異質というわけではない。西洋的価値観の根っこにあるのはすべからく叙事的なのだ。逆に言えば、争いごとを仲介し和解する術にも長けている。
何かにつけ叙事的なトランプ氏が、どちらかというと叙情的なプーチンに停戦を持ちかけている。具体的な戦術は一向にはっきりしないが、ロイターによると停戦担当の特使を務めるキース・ケロッグ氏は、年内に大統領選挙を実施してほしいとウクライナに要請したようだ。トランプ氏もきのう「軍事支援の見返りにレアアースが欲しい」と伝えたという。本音だろう。心の中にある事実を素直に述べている。まさに叙事的だ。週末に行われる日米首脳会談。石破総理は同盟強化やAI分野の協力、アラスカでの原油掘削支援、関税回避など、叙事的な協力強化を訴えるのだろう。それも必要だと思う。だが、それだとトランプ氏の方がはるかに上手な気がする。この際、石破氏は得意とする叙情性に訴えるのだ。「トランプさん、日米が協力して諍いの絶えない世界に聖徳太子の精神を浸透させよう」。トランプ氏が答える。「That`s Wonderful!」。言うわけないか、しょせん聞きもしないことには答えられない。