田村康剛
- 24年のMBO件数は13年ぶり高水準、アジアや英米比で突出した多さ
- 東証のルール見直しで割安にMBOをしようとする企業が減るとの声
東京証券取引所は経営陣が参加する買収(MBO)の実施企業に対し、手続きや価格設定が適切かどうかより厳格な情報開示を求める方針だ。これにより国内のMBOブームは沈静化していく可能性がある。
東証は月内にも上場企業が守るべき事項などを定めた企業行動規範の見直し案を提示する考え。少数株主保護の観点から、MBOを行う際に特別委員会を設置して意⾒を聞くよう義務付けることや、株式価値を算定する前提条件の開示を充実させることなどを検討している。
日本は現在、MBOブームの真っただ中にある。ブルームバーグのデータによると、2024年は富士ソフトや永谷園ホールディングスなど35件の発表があった。アジアや米国、英国を大きく上回り、11年以来の多さとなった。金額ベースでも約9000億円と高水準を維持。現在もセブン&アイ・ホールディングスの創業家などが総額9兆円規模での同社買収を検討している。
企業価値の向上へアクティビスト(物言う株主)らの圧力が高まる中、上場維持にかかる負担が増していることが背景にある。だが、買い手と売り手が同一となるMBOでは、少数株主の利益が十分に考慮されないとの懸念が根強い。企業が過度に割安な価格で非上場化するなどして一般投資家が不利益を被る事態を防ぐため、東証は企業に情報開示の充実を求める。
GCIアセット・マネジメントの池田隆政シニア・ポートフォリオ・マネジャーは、MBOは市場を活性化する方法の一つだと前置きした上で、「少数株主が常に弱い立場にならざるを得ない」と指摘。投資家の権利が損なわれないよう、価格はしっかり検証するべきだと話す。
日本のMBO件数は増加傾向、主要市場の中でも高水準に
Source: ブルームバーグ
カタリスト投資顧問の草刈貴弘共同社長も、MBOでは価格設定の根拠や特別委員会が機能しているかどうかが分からないのが問題だとみている。現在は企業側に有利な条件で市場からの退場ができているが、そうした状況が変われば「よこしまな考えでMBOをする企業は減る」と話す。
近年では23年にMBOを発表した大正製薬ホールディングスの買い付け価格が安過ぎるとして、香港のヘッジファンド、オアシス・マネジメントや米キュリRMBキャピタルが議案に反対する意向を示した。東証のルール見直しの結果、割安な価格で非上場化しようとする企業が減れば、結果的にMBO自体が減少する可能性が高い。
企業支配権やプロキシーアドバイザーを手掛けるクエストハブの大熊将八代表取締役CEOは、「東証がルールを厳しくすれば安く退場できない上、投資家などからさまざまな指摘を受ける可能性もある」とし、「適切に退出することが求められていく」と言う。買収価格が高くなればその分借り入れが増えるなどデメリットも出てくるため、今後の「MBOはそこまで増えない可能性がある」との見解を示した。
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