今朝のニュースで目についたのが米投資ファンドのダルトン・インベストメンツが、フジテレビとフジ・メディア・ホールディングスの取締役相談役を務める日枝久氏の辞任を要求したことだ。主要メディアが軒並み報じている。以前から指摘されていた問題であり、ニュース自体は特に目新しいわけではない。気になったのはフジテレビに限らず日本企業のガバナンスが、世界の常識に比べ大きくかけ離れているのではないかとの疑念だ。フジテレビは中居正広氏の不正行為に対する情報を社長とごく少数の幹部だけで共有、被害女性への対応を含めリスク対応が上場企業とは思えないほど劣悪だった。コンプライアンス室があるにも関わらず、同室を度外視して社長中心の対応に終始した。おそらく上場企業に課されているコーポレートガバナンス・コードの存在など頭に入っていなかったのだろう。企業統治意識が世界のスタンダードに比べると、とんでもなく遅れているのだ。

ダルトンの指摘は強烈だ。「先月下旬に港浩一社長(当時)らが引責辞任したものの、フジサンケイグループの代表でもある日枝氏は記者会見に出席せず、職にとどまった」と指摘。「なぜたった1人の独裁者がこの巨大な放送グループを40年近くも支配することが許されてきたのか。信じ難いことだ!」(時事通信)。ダルトンが言いたかったのはフジテレビだけではないだろう。つい先ごろ亡くなったとはいえ、読売新聞もナベツネこと渡辺恒雄取締役主筆が何十年にもわたって同社を実質支配してきた。創業家一族が支配する企業などにも、ガバナンス上の問題があるかもしれない。日本企業にはかなりの割合で特定個人が実質的に支配する会社が存在しているような気がする。そんなことを考えながらニュースを見ていたら、次の記事が目についた。発信元はブルームバーグ。「『安過ぎMBO』に東証がメス、情報開示厳格化で少数株主を保護へ」。MBOは取締役会が絡む自社の買収を指す。カナダ企業の買収提案を受けているセブンイレブンの創業家が、非上場化を目指して自社を買収しようとしているのがそのいい例だ。

日本企業のMBOは昨年過去最高を記録した。日本はいまMBOブームなのだそうだ。ブルームバーグはそのMBOにも問題があると指摘する。買収価格が総じて安いのだ。物言う株主の排除が簡単に実現する。だからブームになる。その陰で割を食うのが物言わぬ株主、いわゆる個人投資家だ。こうした事態を回避するために東証は「年内にも企業行動規範の見直し案を提示する方針。少数株主保護の観点から、MBOを行う際には特別委員会を設置して意⾒を聞くよう義務付けることや、株式価値を算定する前提条件の開示を充実させることなどを検討している」とある。これを機にMBOブームは消滅するとブルームバーグは予測する。これはほんの一例に過ぎない。財務省が国民を無視して所得控除の上限引き上げを渋るのと一緒で、企業のMBOでも零細な投資家は無視されている。主要メディアにはこれに関連したニュースが見当たらない。メディアも国民と零細投資家を無視している。