「朧気(おぼろげ)」というのは物事が霞んでぼんやりする状態を指している。「朧気化」という言葉があるかどうかわからないが、最近のトランプ政権の政策を見ていると朧気化しているような気がする。大統領は予定どおり鉄鋼とアルミに輸入制限をかけた。本日未明に通商拡大法232条に基づき鉄鋼に25%、アルミに10%の関税をかける命令書に署名した。米国の安全保障に危害をもたらすとして同法を適用したのである。ただ、適用対象からカナダとメキシコを除外したうえ、同盟国とは交渉によって適用しないことも認めており、当初の何が何でも「アメリカ・ファースト」からは後退した。与野党、経済界など米国内で反対が強かったほか、国際的にも大きな批判を招いたことを受けて、若干の修正が行われたようだ。

日経新聞によると米国内では製缶業界や食品機械、ファスナーなど鉄鋼やアルミの加工を行う15の業界団体が、輸入制限に反対を表明している。理由として「私たちの産業は全米で3万の工場を持ち、100万人を超える雇用を創出している。鉄鋼産業の8万人よりはるかに大きい」ことなどを挙げている。輸入制限はトランプ大統領の公約でもある。米中西部のラストベルト地帯はトランプ氏の有力な支持基盤だ。その人達を守るために公約を実行した、というのがトランプ政権の錦の御旗だろう。ただ、業界団体の反対理由の中には「(電炉大手の)米ニューコアの2017年の純利益は前期比65%増の11億ドルに達している。こんな産業が保護の対象になるのはおかしい」(日経新聞)というのもある。電炉業界はすでに政府から様々な保護を受けている。米国内での鉄鋼やアルミの価格は、国際的にみればすでにかなり高くなっている。

今回の輸入制限の発動に関連して経済政策の司令塔であるゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長が辞任している。同氏はトランプ政権の経済政策を統括していた。大統領が歴史的成果と協調する減税法案もコーン氏の存在を抜きには語れない。そのコーン氏を辞任に追い込み、少数の鉄鋼やアルミ製造業者を守ること自体が、広い意味で国家の安全保障を損ないかねない。トランプ政権は大統領選挙で、ラストベルト地帯で打ち捨てられていた白人労働者にスポットライトを当てた。その選挙戦術が奏功して出来上がった政権である。ラストベルトに光を当てることは歴史的な意味があると思う。だが、アメリカ・ファーストの保護主義で打ち捨てられた人々は救われるのだろうか。新たな犠牲者を作り出しているだけではないのか。トランプ政権の政策から光が消え始めた。