けさニュースも見ながらふと気になったのは、南北首脳会談を終えて帰国した韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領の次の言葉。「(金正恩委員長は)できるだけ早いうちに完全な非核化を終わらせて、経済発展に集中したいと希望していた」(FNN)。文大統領は、今回の平壌訪問の意義を自画自賛しているが、金院長の発言についてはかなり正確に伝えているような気がする。経済発展に集中するために、爆破した豊渓里(プンゲリ)の核実験場の査察についても「いつでも受ける」と発言している。個人的には米国の対応次第という前提がついていると思うが、「経済発展に集中したい」というのが本音だとすれば、査察の受け入れもこの文脈の中での正直な発言と見ることもできる。

 

なぜそう思ったか。3日前に時事通信が配信した記事を思い出したからだ。同意記事によると金委員長は首脳会談が始まる前に文大統領を宿泊先の百花園迎賓館に招いている。ここでの歓迎セレモニーで「発展した国に比べると、われわれの宿舎はみすぼらしいでしょう」と大統領に語りかけている。さらに、7月に行われた初の首脳会談の際に「われわれの道路は不便です」と説明。この時、平壌から会談場所の板門店まで車で移動しており、道路状況の劣悪さを感じたのか、「(訪朝は)飛行機で来るのが一番便利です」と提案した。さらに、平壌での今回の歓迎ぶりについても、「水準は低くても最大の誠意を尽くした」と強調している。シンガポールでの米朝首脳会談も経験し、金委員長は心の底から自国の貧しさを実感したのだろう。

 

時事通信によると18日の首脳会談冒頭文大統領は、「平壌の発展ぶりを驚いてみせ、『困難な条件で人民の生活を向上させたリーダーシップに敬意を表し、大いに期待する』と正恩氏を褒めたたえた」という。文大統領も北朝鮮のあまりの貧しさに「困難な条件下で人民の生活を向上させた」と金委員長を褒める以外に言葉が見つからなかったのだろう。南北首脳会談のベースにあるのは金委員長の“卑下”と文大統領の“同情”かもしれない。だとすれば国際政治は“非情”だ。非核化をめぐる米朝や中国、ロシア、韓国、日本を巻き込んだ駆け引きは「みすぼらしさ」を無視して展開されている。個人的には人権を無視して敵対する人々を殺害する金王朝の体制維持に賛成できないが、貧困からの脱却を目指して「経済発展に集中したい」というのが本音だとすれば、非核化も単なる駆け引きではなく“本気”ということになる。