トランプ政権による移民政策の厳格化で米国の食肉業界が困っているとの記事をブルーンムバーグが配信している。「人手が足りない、移民政策厳格化で米食肉加工業界悲鳴」と題されたこの記事によると、ひき肉供給最大手カーギルの幹部は「人手不足は生産の鈍化につながり、マージンの高い新製品の生産に影響を及ぼしている」と語っている。いまのところ不足感は全体の1%程度に止まっているようだが、世界の食肉需要が拡大する中で同社は「賃上げをしたり住宅やヘルスケア関連の支出を増やしたりするなど労働意欲向上のために手当を拡充せざるを得ない」と説明している。移民政策の強化に加えて世界的に景気が拡大しており、米企業にとっては労働者対策が最優先事項になりつつあるようだ。

米中の貿易摩擦の深刻化で景気の先行きは不透明になりつつあるものの、足元では労働力不足が徐々に強まっている。そうした状況が逆に米経済の緩やかな回復を長期化させる要因になっているのかもしれない。いいのか悪いのかわからないが、食肉加工業自体は日本流に言えば3K職場だろう。これまではその仕事は移民が担ってきた。そこが人手不足ということになれば、米国の一般労働者がそれを担うしかない。求人は増加し、賃金も上昇する。だけど長い目で見ればコストが上がって、競争力は低下する。グローバルな競争に負ければ結局は米国の食肉加工業界は衰退に向かう。風が吹けば桶屋が儲かる式の連鎖が起こり、最終的に儲かるのは意外なことに非米国の労働者、つまりは移民ということになり、損するのは米国という図式が見えてくる。

こういう記事を読んでいるとトランプ大統領が掲げる「米国第一主義」の限界を感じざるをえない。米国第一主義は移民の増加によって米国の労働者が弾き飛ばされている現状を変えようとする政策である。移民を抑制し貿易赤字を削減して労働需要を回復し、減税によって労働者の懐を潤す。こうして景気が長期的な回復軌道に乗って米国の労働者が恩恵をうける。だが、それは実体経済に的を絞った机上論でしかない。現実は3K職場の労働需要が増えて、賃金が上昇する一方で「きつい」、「汚い」、「危険」な仕事に従事する労働者の不満と不安を同時に増大させてしまうのである。市場経済はマクロでは合理的だが、ミクロでは不条理で不都合で不合理なことが平気でまかり通る。この記事は「米国第一主義」だけでは米国民が幸せになれないことを物語っているような気がする。