韓国の最高裁が30日、韓国人の元徴用工4人が新日鉄住金に損害賠償を求めた訴訟の上告審で、新日鉄住金の上告を退ける判決を言い渡した。原告4人に対して請求全額の計4億ウォン(約4千万円)の支払いを命じたのである。これで判決は確定した。これに対して日本政府は元徴用工の請求権問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場。安倍首相は「国際法に照らしてあり得ない」と判決を批判、河野外相は韓国の李洙勲(イスフン)駐日大使を外務省に呼び、「国際社会の常識では考えられないことが起こっている」(時事通信)と強い口調で抗議した。マスコミも珍しく歩調を揃えて韓国最高裁の判決に懸念を表明し、経団連の中西会長は「この判決が日韓の経済のいろいろな今後の関係に変な影響を及ぼさなければいいなという、それがいちばん最初に頭に浮かぶ」(TBS)と懸念を表明した。

個人的な感情で言えば韓国に対する不信感がこの判決を機に一段と強まった。二国間の外交が緊張関係に入ろうとするとき、一番避けなければならないのが感情論である。そんなことは百も承知だが、こちらは市井に佇む一介のシ市民にすぎない。感情論を押しとどめる術など持ち合わせていない。それでも多少は冷静に不信感の寄って来る源泉を辿ってみれば、韓国という抽象的な国家ではなく文在寅(ムンジェイン)大統領その人に行き着く。朴槿惠大統領のあとを受けて登場した文氏は、北朝鮮の平壌オリンピック参加問題から国際政治の表舞台に颯爽と登場した。北朝鮮の金正恩委員長の一方的な平和攻勢を無防備に受け入れ、朝鮮半島の非核化に大きく舵を切った。その対応があまりにも北朝鮮寄りに見えた。このとき同大統領に対する不信感が芽生えたような気がする。

今回の徴用工問題には過去いくつもの経緯がある。文氏との関わりで言えば 2005年に革新系の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が「強制動員被害補償の問題解決の資金が(請求権協定に)包括的に勘案されている」(日経新聞)との見解をまとめている。このとき大統領側近としてこの問題に関わったのが文氏である。大統領になって文氏は最高裁に側近を送り込み、今回の判決をまとめさせた。自ら手を下さないまま賠償問題に関する見解を変えたのである。当の文氏は最高裁の判決は尊重せざるをえないとの趣旨の発言をしているようだ。文氏は腹黒い(能力があるという意味)政治家だと思う。時々常識を超えた行動をとる。これは常識的な日本人の発想を超える。韓国世論はおそらく今回の判決を支持して一段と日本に対する不信感を強めるだろう。国際政治は良くも悪くも常識を超えることがある。それに対する備えが常識に頼りすぎる日本人には必要な気がする。