サウジアラビアの著名ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害をめぐるニュースが、日々の報道のなかで相変わらず大きなウエイトを占めている。外野席から遠巻きに事態の推移を眺めている私のような傍観者からみれば、何が真実で何が嘘なのか、簡単に見分けがつかない。これまでの報道を見る限りトルコ側の主張の方がサウジアラビアの言い分よりはるかに真実性があるように見える。とはいえ、トルコ側にも今回の事件を徹底的に追及する何らかのインセンティブが働いているだろう。それぐらいの警戒心を持ちながら日々情報に接している。こうしたなかで、これはと思う解説記事を時事ドットコム上で見つけた。中東ジャーナリスト・池滝和秀氏による【地球コラム】安田さん「なぜ解放されたのか」がそれ。当ブログに記事全文を再掲したので興味ある方はご一読ください。

問題の発端は「アラブの春」に起因している。池滝氏の記事を引用しよう。「中東は、イスラム社会である。イスラムという宗教とは切っても切れない関係性にある。『アラブの春』で息を吹き返したのが、『政治的イスラム』と呼ばれる政治勢力だ。『政治的イスラム』とは、イスラムの価値観やイスラム法を規範として、政体の確立を目指す政治諸運動や思想潮流である。ウサマ・ビンラディン容疑者が率いた国際テロ組織アルカイダや、バグダディ容疑者がカリフ(預言者の代理人)を名乗った過激派組織『イスラム国』(IS)、ムスリム同胞団からトルコの公正発展党(AKP)、また1979年にイスラム革命で誕生した現在のイランの政治体制もこれに該当する」。そして、「アラブの春」によって、「政治的イスラム」に位置付けられる諸勢力に空前のチャンスが到来した。

記事によると一方のサウジは、「2017年6月、エジプトやアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンと徒党を組んでカタールと断交した」、「4カ国に共通するのは、君主制であったり、エジプトのように軍部が『ディープステート』として影の支配者として国家を運営していたりする」とある。大雑把に言えば、アラブの春に連なる「政治的イスラム」対「王政、軍事支配」の対立である。そこにカショギ氏殺害事件が持ち上がる。トルコはカタールと組んで徹底的にサウジを非人道的で極悪非道な国家との印象操作を行う。加えて池滝氏は、トルコとカタールが組んで自分たちの民主的なイメージを際立たせるために安田さんの解放を実現させたのではと推測する。どちらが正しいと言っているわけではない。ニュースには背景となる構造がつきまとう。そこまで理解しないと真実はみえないということだ。その安田さんについて日本では今朝、テレビ朝日がジャーナリストの「自己責任」をめぐって議論していた。