ニューヨーク・ダウが昨日800ドル急落した。G20の祭に実施された米中首脳会談について、「実質的な中身はない」との見方が広がったこと。加えて米金利の一部で長短の利回りが逆転したこと。これによって投資家の間に悲観的な見方が広がり、急落を招いたようだ。5日にブッシュ元大統領(父)の国葬が行われ、この日が休日となることも売り方の売り急ぎを誘ったようだ。このほか、英国議会がメイ首相のまとめたブレグジット合意案を否決するとの見通しや、イタリヤの財政問題など悪材料には事欠かない。このところ政治の動きに一喜一憂しているマーケットだが、昨日の急落は政治に対するレッドカードかもしれない。

米中の首脳会談を「大成功」と自画自賛したトランプ氏だが、ロイターによると昨日は中国との通商交渉が決裂した場合、同国からの輸入品に追加関税を課すと明言した。そしてツイッターで、「本物の合意」が可能かどうかはライトハイザー米通商代表部(USTR)代表が判断するとした上で、「そうなれば一件落着だ」と指摘。一方で、「私はタリフマン(関税の男)なのでよろしく」と中国をけん制した。トランプ大統領は最近タリフ(関税)にそこはかとない関心を示すようになっている。税率引き上げによって表面的には税収が増える。そこに興味を持ったのか、とうとう「私はタリフマン(関税男)」と宣言したわけだ。トランプ大統領の無神経な発言に怒りをぶつけたのが株価だ。800ドルという急落で株が大好きなトランプ氏に“お灸”を据えた。

同じような出来事は少し前にもあった。FRBが政策金利を来年も継続的に引き上げるとの見通しを示したあと、株式市場は暴落を繰り返したのである。これに懲りたわけではないだろうがパウエル議長は11月28日の講演で来年以降の利上げについて中立的と思わせる発言を行った。中央銀行総裁がマーケットに配慮し、株価の急落が止まることを総称してパウエル・プットと呼ぶ。昨日のニューヨーク・ダウの急落はタリフマンと言葉を弄ぶトランプ大統領に対する警告かもしれない。トランプ氏がこれに懲りて貿易戦争の終結に乗り出せば、これは明らかに“トランプ・プット”になる。パウエル・プットもトランプ・プットも、株価防衛にあの手この手を繰り出す「ダウ自警団」が仕掛ける政策当局への嫌がらせである。さてこの戦い、どっちが勝つのか…。