昨夜、夜遅くに帰宅してニュースをチェックしたが稀勢の里引退の記事は見当たらなかった。今朝起きて改めてネットでニュースをみたが引退の情報はどこにもない。ということは今日も土俵に上がるということだろうか。とすれば、異常で異様な横綱ということになる。稀勢の里に限らず横綱のそんな姿は誰も見たくない。土俵に上がるとすればそれは稀勢の里の未練か執念か、はたまた怨念ということになる。未練も執念もそれは横綱の個人的な情念だろう。いくら稀勢の里でもそんな情念はできれば見たくない。仮に全敗しても土俵に上がるとすれば、それは日本相撲協会ならびに相撲を取り巻く諸々の情勢への異議の申し立てということになる。稀勢の里にはすでにそんな想いすらないのかもしれない。引退を決断できない横綱にあるまじき横綱。稀勢の里につきまとうこの不可解な空気、これは一体なんなのだろう。

テレビ桟敷で時々相撲を見ている程度の相撲ファンにすぎないが、稀勢の里が横綱に昇進した2017年3月場所の出来事はいまでも鮮明に覚えている。若乃花以来19年ぶりに日本人として横綱に昇進したこの場所、稀勢の里に対する期待は全国的に異様な勢いで盛り上がった。この場所、初日から12連勝した横綱は13日目に横綱日馬富士と対戦。土俵際に押し込まれて押し倒された際に土俵下に転落、左肩を強打した。土俵下で左肩を抑えて顔をしかめていた稀勢の里の姿が今でも目に焼き付いている。横綱昇進場所での優勝という期待はこの時点で完全に潰えたかに思えた。しかし、14日目も左肩に巨大なサポーターを巻いて土俵に上がった。結果は横綱鶴竜に一方的に押し込まれて2連敗。1敗を守った照の富士に逆転される。そして問題の千秋楽。

対戦相手は照の富士。優勝するためには本割、決定戦と2連勝しなければならない。左肩は出血で黒ずみ、一段と悪化、深刻化している様子がテレビ桟敷からもうかがえる。事前の予想は絶好調の照の富士の完勝。意地の出場を果たした稀勢の里に対する応援はものすごかったものの、誰もがあの状態で勝てるとは思っていなかった。だが、本割で稀勢の里は押し込まれながらも土俵際で左に変化して照の富士を突き落とす。決定戦はもろ差しを許して絶対絶命のピンチ、だが勝負は下駄を履くまでわからない。この不利な体勢から土俵際で一発逆転の小手投が決まったのだ。横綱昇進場所での逆転優勝の“快挙”。だがしかし、これが稀勢の里の力士生命を奪った。本来ならドクターストップである。親方も審判員も相撲協会も、横審のメンバーも、誰も稀勢の里を止めなかった。国技・相撲が横綱を見殺しにしたのである。その怨念を晴らすために今日も土俵に上がるのかもしれない。と思っていたら横綱引退の速報が飛び込んできた。