米中の貿易摩擦を表の懸念要因とすれば、裏で燻る材料は両国の経済先行き懸念だろう。米国はトランプ大統領の減税効果が剥落、景気のピークアウトを懸念する声がある。中国では昨日から全国人民代表大会が始まった。初日に政府活動報告を行なった李克強首相は、2019年の経済成長率を6.0~6.5%に設定、2年ぶりに目標を引き下げた。中国経済は表面的な成長鈍化以上に、政府が蓋をして表面化しないようにコントロールしている不良債権の動向が気になる。地方政府が抱える簿外債務は借り換え債の発行でしのいでいるようだが、世界経済の低迷が長期化すればいつ破綻してもおかしくない状況のようだ。

FRBのパウエル議長は先月末、下院金融委員会で行った議会証言で「年内にバランスシートの縮小を停止する」と述べている。昨年までは今年の利上げが3回から4回になると見通していたが、議会証言では「忍耐強く対応する」と180度トーンが変わった。トランプ大統領が同議長に対して露骨に利上げの停止を求めたことや、ニューヨーク・ダウの急落が影響したとの説もある。米国の経済指標は好悪入り乱れている状況で、先行きは見通せない。英国のEU離脱、米中貿易摩擦に材料が加われば、エコノミストの見通しもつられて上がったり下がったりしている。まさに踊り場といったところだ。そうした中で独りNYダウだけは一時2万6000ドルを回復した。

リーマンショック後、当時のオバマ大統領は有史以来ともいうべき金融の大緩和を実行した。この影響で世界中にドル資金が溢れかえった。中国も追随して公共投資の大盤振る舞いをした。これが金融市場に限らず実体経済に大きな影響を及ぼした。その両国が貿易戦争を戦っているのだから、金融市場も実体経済も不安定化するのは当たり前だ。問題は停戦で懸念材料が取り除かれた時、金融市場や実体経済がどうなるかだ。例えば、貿易摩擦が一時的に解消して中国の購買力が回復した時、株式市場は好感して急騰するだろう。半面、債券市場は暴落して金利が上昇する。そうなれば中国の実体経済は持ち直すとしても、不良債権の借り換えは難しくなる。そんな単純ではないにしても、どっちに転んでも解消しない問題があらたに発生する。その時、日本は、世界経済は、どうなるのだろう?