中国の経済統計は信用できないとの指摘は学者やエコノミスト、アナリストなど専門家の間でつとに知られている。5日に開幕した全国人民代表大会(全人代)の冒頭、李克強(リーコーチアン)首相は2019年の経済成長率を6.0%−6.5%に引き下げると発表した。2018年の成長率は6.6%。これに比べれば最大で0.5%下がる。これをもって多くのメディアが、中国経済の低迷を予測している。中国がくしゃみをすれば世界中が風邪を引く時代である。中国の低迷はもはや人ごとではない。日本にもストレートに跳ね返ってくる。ところが、ところが、である。この数字、果たして本当に信用できるのか。統計の信憑性に確証が持てないのである。

日本総研の呉軍華理事は、中国にも「統計操作」があるのでは指摘する。同氏は中国国家統計局が発表した「鉱工業企業利益の伸び率推移」という統計を引き合いに出す。米中貿易摩擦の激化にともない中国企業の利益は2018年4月以降毎月右肩下がりに急減している。11月にはマイナスに転落したが、マイナス幅は小幅に止まっている。この統計は売上高が2000万元以上の企業が対象になっている。同氏は対象を入れ替えることによってマイナス幅を小幅にとどめているのではないかと推測する。まるで厚労省が行なった毎月勤労統計の統計操作と一緒である。こうした操作が統計の随所にあるとすれば、各種統計の寄せ集めであるGDPの伸び率は6.6%の実績を大幅に下回ることになる。

2018年の中国GDPの実態は1%台の半ばという観測や、すでにマイナス成長に陥っているとの見方もある。事実は確認できないが、仮に2018年のGDPが6.6%を大幅に下回っていたことが事実だとすれば、世界経済は中国が風邪を引いているのにくしゃみ程度で持ちこたえていたことになる。日銀の黒田総裁は「消費者の間にデフレマインドが定着しているから物価が上がらない」と折に触れて指摘している。経済は心理的な要因に左右される。統計不正が消費者の心理を下支えているのだとすれば、事実が発覚した時の反動は想像を絶する。意図的に統計を操作している国があれば、世界経済は成り立たなくなる。国際社会は統計操作を排除する仕組みを真剣に考えるべきではないか。