最近米国でMMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)をめぐる論争が活発になっている。一言で言えばこの理論は、金利が上がらないことを前提に「財政赤字は無限に拡大できる」というもの。ロイターによるとこの理論の提唱者の一人が、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授。同教授によると、「ユーロという共通通貨があり、独自の通貨を持たないギリシャなどは、独自の判断で無制限の流動性供給を行うことはできない。それゆえデフォルトリスクがある」。これに対して米国は、「独自通貨を持っており、経済成長と雇用の増加が続いている限り、政府債務の増加自体は問題ない」というもの。ケルトン教授が2016年の大統領選挙時に民主党のサンダース候補の顧問を務めていたことからこの問題、次の大統領選挙の争点になりそうな気配もある。

自国通貨との関係をもう少し詳しくみる。同教授は「政府債務の増加がマクロ的な供給不足からインフレを起こすような場合」は問題であると言っている。要は通貨の供給量が一定なら政府債務の増加によってインフレが起こる。この場合政府は無秩序に債務を増やすことはできない。ユーロに縛られ、独自通貨を持たないギリシャがこのケースに該当する。これに対して米国は、独自にドル紙幣を印刷することができる。政府債務の増大に合わせてドル紙幣を増刷すれば、「インフレを起こすことはない」。だから「無制限に政府債務を増やしても問題はない」ということになる。なにやらタネも仕掛けもあるマジックのようだ。トランプ大統領が喜びそうな理論だが、この理論の支持者は民主党左派に多いようだ。既成勢力を代表する学者や知識人はこの理論に強行に反対している。

FRBのパウエル議長は2月末の議会証言でこの理論について、「全く誤っていると思う」と全面否定した。同議長だけではない。ロイターによるとノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏、元米財務長官のローレンス・サマーズ氏は過去3週間、ツイッターやテレビ、新聞のコラム欄を活用して、ケルトン教授に反論を重ねてきたという。一方、昨年11月にニューヨーク州から連邦議会下院選に立候補し、29歳で当選したアレクサンドリア・オカシオコルテス氏。女性として史上最年少の米下院議員となった人で、将来の大統領候補との呼び声も高い注目の下院議員。彼女がMMTを支持したことでこの論争が一気に注目されるようになった。国民皆保険や「グリーン・ニューディール」など環境対策の財源調達にはもってこいの理論。日本はすでにMMTを実践している。来年の米大統領選挙とも絡み、この論争はしばらく続きそうな気配だ。