大リーグ・マリナーズのイチロー選手が21日に引退を表明した。日米通算4367安打、大リーグシーズン最多の262安打など、数々の記録を残した。野球史に永遠に名を残すスーパースターだ。イチローは夢中になって野球をやり、野球に熱中し、来る日も来る日も集中して野球をやった人だ。記録も残し、記憶にも残る活躍をした。個人的には2009年のWBCの決勝戦が蘇る。多くの野球ファンも同じだろう。相手は韓国。9回裏に3−3の同点に追いつかれた。10回表、2アウト2、3塁。イチローの出番が回ってくる。このシリーズ絶不調だった。粘りに粘った8球目、クリーンヒットがセンター前に抜けた。5−3で日本が優勝を決める。あの時、会社でみんなテレビを見ていた。誰も仕事をしていなかった。

イチローは間違いなく努力する人だった。華やかな表舞台の裏に潜むイチローの血の滲むような努力。凡人には実感できない。大谷翔平が時速160キロで投げたボールは、0.4秒後にキャッチャーミットに届く。脳科学者の渡辺正峰氏によると、人間がバットを振るのに0.1秒かかる。ということはイチローが大谷投手の投げたボールを打つためには、ボールが投手の手から離れた0.3秒後には行動を起こしていなければならない。厳密に計算すればもっと早いだろう。この早さは頭で考えていては間に合わない。脳が信号を発して手足が動くまでには0.5秒かかるという。普通の人はキャッチャーミットにボールが収まってからバットを振ることになる。これでは絶対にバットにボールは当たらない。

バッターは考える前に体で反応している。そのためにイチローは来る日も来る日も、「コツコツ」とバットを振り続けた。血の滲むような努力、凡人にはない続ける力。その上にイチローの記録と記憶は成り立っている。ど真ん中のボールを平気で見逃し、ワンバウンドしそうな低めのボールをゴルフのようなアッパースイングでヒットにした。普通の人にはできない芸当だ。練習で築き上げたカラダが反応している。常識にとらわれない人だ。天才・長嶋は入団早々の松井に「来たボールをビシッと打て」と指導したそうだ。この人も常識では計れない。だが、同じ天才でもイチローの方が意志の力が強かった気がする。「一念岩をも通す」、その志(こころざし)がイチローをスーパースターに押し上げた。