米中の貿易摩擦が深刻化する中でトランプ大統領はとうとう、連邦準備制度理事会(FRB)に貿易戦争への参戦を求めた。ブルーンバーグ(BB)によると、「トランプ氏は14日にツイッターに、『中国は失いつつある、また今後失うであろうビジネスの穴を埋めるため、いつものように国内のシステムにマネーを供給し、恐らく金利を引き下げるだろう』と投稿。米金融当局がそれと『同等の措置』を講じれば、ゲームオーバーだ。われわれが勝利する!いずれにせよ、中国は取引を望んでいる!」とツイートした。要するに大統領は「FRBよ、中国を屈服させるため、共に戦おう!」と言っているわけだ。専門家に限らず多くの人はこの呼びかけを異常と思うだろう。中央銀行の「独立性」は木っ端微塵に粉砕されそうである。

果たしてそうなのだろうか。政府と中央銀行は連携してはじめて政策効果を発揮できるはずだ。独立性という名の下で中銀が政府に楯突くことが本当に正しいのか。日本では2013年1月、政府と日銀が「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のため」に、政策連携の強化を目的とした共同声明に署名している。政府と日銀が一体となって、デフレ脱却という目標に向けて手を携えたのである。市場経済をベースにしているとはいえ中国は、政府が全ての実権を握っている。トランプ氏が指摘するまでもなく、人民銀行は政府の指示があればそれに従う。貿易戦争を勝ち抜くために利下げが必要かどうかわからないが、中国政府と人民銀行は一体である。これに対して米国。このところトランプ大統領とパウエルFRB議長の軋轢が増している。

では、中銀は「独立性」を放棄すべきなのか。そもそも中銀の独立性ってなんだろう。政府は時々間違いを犯す。だからこれを正すために中銀には独立性が認められている。これが「独立性」の大義だろう。政府に従う義務はない。だが、民主主義国家で政府を選ぶのは国民である。間違った政府を正すのは中銀ではなく国民のはずだ。中銀の役割は物価の安定である。FRBはこれに雇用の最大化を自らの責務として課している。物価も雇用も政府と日銀が歩調を合わせないかぎり実効性はあがらない。その意味で政府と中央銀行はいつも一心同体なのである。世界最大のヘッジファンドの創設者、レイ・ダリオ氏は「中央銀行はいずれ時代遅れになり、MMTのような別の仕組みに取って代わられるのは『不可避』だ」(BB)と言っている。米中の貿易摩擦は中銀の「独立性」にも波及してきた。