NYダウはきのう512ドル高と急騰した。FRBのパウエル議長がシカゴで講演、貿易戦争などに起因するリスクに「適切に」対応すると述べたことがきっかけ。リスクに適切に対応するというのは金融当局として当たり前のことだが、市場はこれを「利下げ容認」と受け取った。景気回復を続ける米国の中央銀行が利下げに踏み切るとすれば、株価が上がるのは当然の成り行き。トランプ大統領が次から次へと繰り出す関税引き上げ政策に不安を感じた議長が、いよいよ利下げに踏み出すという構図だ。今年の初めに利上げを目指していたことを考えれば、わずか半年足らずで“大変身”したことになる。変身のきっかけは物価。インフレ率が目標を下回っている状態では利上げどころか利下げが必要だという判断だろう。

ローターはきのう「米FRB、貿易戦争などに起因するリスクに適切対応=議長」との記事を配信した。この記事を要約するとパウエル議長は、「通商問題が及ぼす影響」を「緊密に注視」、「(景気)拡大を維持するため」に、「適切に行動する」ということになる。 この日の講演で同議長はこれまで必ず指摘していた「金利水準は適切である」、「金利水準の変更には『忍耐強く』対処する」との文言を言わなかった。「忍耐強く対処」が「適切に対応する」に変わったことが利下げに向けた環境づくりと評価されたわけだ。マーケットの判断はおそらく正しいのだろう。FRBは9月までに政策金利を引き下げるだろう。これは昨年来、再三にわたって「金利を引き下げろ」と要求していたトランプ大統領の勝利なのかもしれない。

デコボコはあるにしても米景気は着実に回復している。不思議なのはそれでも金利が上昇しないことだ。金利は物価に連動している。物価が上がらない以上無理やり金利を引き上げるのは愚の骨頂だ。パウエル議長は景気を持続させるために利上げが必要と考えていた。景気が加熱して物価が急騰するといった事態を防ぐための予防策である。トランプ減税で景気は順調に回復している。にもかかわらず物価は上がりそうで上がらない。そうこうするうちに米中貿易摩擦に収束の気配が見えなくなり、景気の先行きが怪しくなってきた。パウエル議長はいま、景気の腰折れを回避するために利下げが必要かもしれないと考え始めている。これを一言で言えば「適切に対応する」ということになる。利上げから利下げ検討へ、議長の頭の中で渦巻いていた霧が晴れつつあるのかもしれない。