この週末、最も気になったニュースはトランプ大統領が、イランに対する攻撃を10分前に突然撤回したことである。この攻撃はイランが米国の無人偵察機を撃墜したことに対する報復。ボルトン大統領補佐官やポンペイオ国務長官らイラン強硬派が賛成していたもの。突然撤回した理由について同大統領は「何人のイラン人が死ぬことになる?」と軍部に確認したところ、「約150人という答えが返ってきた」と語っている。そして「イランは無人機を撃墜したが、私が攻撃を許可すれば30分以内に150人の死者を出すことになる」と考えたと説明、「それは好ましくなかった。釣り合いが取れているとは思わなかった」と強調した。この通りならトランプ氏は人命を最優先する人道派大統領ということになる。にわかには信じられない。

では、なぜ攻撃命令は突然撤回されたのか。大統領の心中を確認する手段がない以上、決断にいたるこころの動きは推測し、憶測し、妄想をたくましくして想像し推理する以外に方法はない。要するに根拠は何もないがトランプ大統領はイランの最高指導者であるハメネイ師に、「自分はイランのために決断できる頼り甲斐のある大統領である」という印象を植え付けたかったのではないか。北朝鮮の金正恩委員長は同大統領を「優れた決断のできる人物である」と一応高く評価している。トランプ政権の幹部は頼りにできないが、大統領との意思疎通を確保していれば、米朝関係は思い通りにコントロールできる。敵国から見て頼り甲斐のある大統領のイメージが確立すれば、トップ主導で二国感の関係改善を推進することも可能になる。そんなイメージをイランに植え付けたかったのではないか。

攻撃10分前に命令を撤回させることができる。俺は頼り甲斐のある大統領だ。150人のイラン人の命は撃墜された無人偵察機とは釣り合わない。大統領としていかに人命を尊重しているか「イランよ、見よ」、というわけだ。大統領のツイッターはありのままに発信されているように見える。しかし、そんなことはあり得ない。全てが計算された上で実行されている。あえて10分前と強調したり、150人という人数をいれたり、今回のツイートほどわざとらしいものはない。「ハメネイよ、俺を信じて無条件の話し合いに応じろ。ボルトンやポンペイオがなんと言おうと、俺がすべてを決めている。俺のいうことをきけ」。何となくトランプ大統領の心の中に蠢く、いいとこ取りの心根が透けて見える。先の安倍首相の訪問時にハメネイ氏は「トランプ氏は意見交換に適した人物ではない」と切り捨てた。そのハメネイ氏、トランプ大統領の田舎芝居に心を動かされた“フリ”ができれば、世界は今より少しは良くなるかもしれない。