イランが8日、ウランの濃縮度が核合意の上限である3.67%を超えたと発表した。国際原子力機関(IAEA)もこれを確認。イラン側が同日、濃縮度が約4.5%になったと通知してきたことも明らかにした。ウランの濃縮度は20%を超えると核爆弾への転用が一気に加速するとも言われている。イランは20%も今後の選択肢としているほか、核合意の履行停止第3弾として「遠心分離機の数を増やすことも選択肢だ」(ロイター)と発言している。 これに対して強硬派のボルトン大統領補佐官は「イランが核兵器の開発を断念し、中東地域における暴力的な活動を停止するまで圧力を掛け続ける」(同)と高圧的な態度を取り続けている。ペンス米副大統領も「イランは、米国の自制を決断の欠如と勘違いすべきでない」とけん制。その一方で同氏は「米国はイランとの戦争を求めていない。われわれは対話に前向きだ」と付け足すことも忘れない。

要するに両国ともに圧力を加えながら、駆け引きを繰り返しているのである。米国はイランとの戦争を求めていないと強調する。ロイターによるとイランも、革命防衛隊のサラミ司令官が次のような発言をしている。「イランは核兵器を追求しておらず、そのことは世界が理解している。イランが核兵器を追求していないことを分かっていながら、世界はなぜ対イラン制裁を実施しているのか」と不満を述べている。その上で「イスラムの世界に核兵器は不要だ。イスラム教は大量破壊兵器を容認しない」とも言っている。にもかかわらず双方とも危険を承知の上で、抜き差しならない駆け引きにのめり込んでいく。一つ間違えば本当の戦争に発展しかねないリスクを取りながら、相手を責め続ける。これが国際政治の実態なのだろう。まさにチキンレースだ。引いた方が負ける。

チキンレースを収拾するには仲介者がいる。フランスを筆頭にしたEUがいまその役割を担うとしている。NHKによるとフランス、ドイツ、イギリスは、イランとの貿易を続けるための事業体を設立した。この事業体はINSTEX(貿易取引支援機関)というもので、ヨーロッパの企業はイラン側と取り引きしても、INSTEXを介してユーロ建てで決済すればアメリカによる制裁の対象にはならない。だが、当面の対象は医薬品や食品などアメリカの制裁対象になっていないものばかり。イランが望む原油をこれに加えようとすると米国が反対する。そればかりではない。EUとの通商交渉で米国は強烈な圧力をかけてくるという。日米の通商交渉を睨みながら安保破棄を言い出すようなものだ。かくして圧力と駆け引きはとめどなく広がる。「トランプは無能だ」と本国に報告した英国の駐米大使の心境が良くわかる。