きのうはスマホに流れるニュース速報をみて、久しぶりにホッとした。摩擦、紛争、仲違いなど最近は国内外の情勢を見ながら不愉快な思いをする日が多い。そんな中できのうは久しぶりに安堵感が身体中を駆け巡った。最大の要因は香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が、「逃亡犯条例」改正案の撤回を正式に表明したこと。3カ月に及ぶ香港市民の抗議行動が実を結んだ。中国が力でデモ隊を鎮圧するといった最悪の事態も想定された。それだけに平和的な手段で「撤回」の言質を勝ち取った香港市民に、心からお祝いを伝えたい気分だ。とはいえ、これで全てが決着したわけではない。撤回は民主派が要求する5項目の一つに過ぎない。度を越した警察権力の実態調査など、問題は残っている。今朝のニュースには「長官の譲歩は小さ過ぎ、遅過ぎだ。香港の傷口からまだ血が流れている」との民主派の声が記されていた。

英議会がEUからの合意なき離脱を阻止するための法案を可決したことも安堵感を増幅した。10月末に合意なき離脱を強行すると表明していたジョンソン首相は、10月中旬まで議会を閉鎖する措置に打って出た。これが穏健離脱派の怒りを買ったのだろう。閉会前の議会で合意なき離脱を阻止するための法案を一気に可決してしまった。これは首相にとって誤算だったと思う。法案が通れば総選挙に打って出ると豪語していた同首相、内心では「法案は通らない」と考えていた節がある。だが、一旦勢づいた穏健派は総選挙を阻止するための法案も直後に成立させた。首相にとっては手足を縛られた状態になったわけで、攻め込んだ議会に逆に攻め込まれてしまったわけだ。ブレグジットは来年の1月末まで延期される可能性が強くなった。一番ホッとしているのは英国に進出している企業だろう。

トランプ大統領が登場して米国だけでなく国際社会でも対立、紛争が絶えなくなってきた。米中貿易摩擦に限らずパリ協定離脱、イラン危機、INF協定破棄、米大使館のエルサレム移転など紛争が続発するようになった。紛争は敵対的な関係にある国だけが対象になっているわけではない。防衛費負担問を巡って米国はEU、韓国、日本ともことを構えようとしている。必然的に多くの国々が殺伐とした空気が包まれる。気分は荒れ、国々の関係や人間関が刺々しくなる。そんな中で香港の逃亡条例撤回は一服の清涼剤だった。行政庁長官にも普通の市民としての感覚が残っていたということだろう。とはいえ、中国がこれで香港市民が要求する民主化を認めたわけではない。撤回は当面の混乱回避を目的とした懐柔策に過ぎない。ホッとする日は「長続きしない」というのが、いまの世界の現実だろう。