令和天皇の即位礼正典の儀が無事終了した。高御座から天皇即位を内外に宣言、その時述べられたお言葉は以下の通りだ。

「さきに、日本国憲法及び皇室典範特例法の定めるところにより皇位を継承いたしました。ここに『即位礼正殿の儀』を行い、即位を内外に宣明いたします。 
 上皇陛下が三十年以上にわたる御在位の間、常に国民の幸せと世界の平和を願われ、いかなる時も国民と苦楽を共にされながら、その御(み)心を御自身のお姿でお示しになってきたことに、改めて深く思いを致し、ここに、国民の幸せと世界の平和を常に願い、国民に寄り添いながら、憲法にのっとり、日本国及び日本国民統合の象徴としてのつとめを果たすことを誓います。
 国民の叡智(えいち)とたゆみない努力によって、我が国が一層の発展を遂げ、国際社会の友好と平和、人類の福祉と繁栄に寄与することを切に希望いたします」

 敗戦によって現人神から象徴天皇に変わった天皇。その天皇の役割は日本国民統合の象徴としてのつとめを果たすこと。上皇と上皇后がそのあり方を模索し、常に「国民に寄り添い」ながらその役割を果たそうとしたことは多くの国民の共感を呼び起こした。個人的には2015年パラオを訪問された折、アンガウル島からかつての戦場だった海に向かって拝礼するお二人の後ろ姿がいまでも脳裏に焼き付いている。自然災害の折に全国を飛び回って被災者を励ました姿に、象徴としての天皇の存在感が映し出されていた。天皇が国民に寄り添うと同時に、国民も天皇を敬愛の念で迎えていた。言ってみれば国民もまた天皇ならびに天皇家に寄り添ってきたのである。

令和天皇は平成天皇の御(み)心を受け継ぐと内外に宣言した。国民に寄り添う天皇と、天皇に寄り添う国民。この狭間で政治は「国際社会の友好と平和、人類の福祉と繁栄に寄与すること」を義務付けられている。令和天皇はこの構造の継続を内外に宣言した。折から日本にも世界にも“不穏な風”が吹き始めている。天皇と国民の良好な関係が平和を築く原動力になったのか、平和が続いたから良好な関係が継続したのか、令和の時代に改めて問われることになるだろう。前者であって欲しいと願いつつ、地球規模で広がる格差の拡大や二極化、局地的な紛争や貿易摩擦など非武力的な戦争の多発など、不穏な風に天皇と国民がどう立ち向かうのか。古式ゆかしき儀式を眺めながら令和の先行きに思いを馳せてみた。