24日に実施された香港区議会議員選挙で民主派は全議席の8割強を獲得した。地滑り的大勝利だ。逃亡条例を機に活発化したデモ派の勝利であり、デモ圧殺に動いた林鄭月娥(キャリー・ラム)長官をはじめ香港行政庁、警察当局には手厳しい結果となった。それ以上に大きな痛手を受けたのは中国だ。日経新聞は「中国政府は親中派の惨敗でメンツを失い、難しい立場に追い込まれた。抗議活動の参加者を『一部の暴徒』として一般市民から分断しようとしてきたが、デモ隊への民意の支持が明確になり、国内向けにも説明がつかなくなった」と解説する。メンツはともかくとして中国に対する国際的信用が大きく傷ついたことは事実だろう。民意に反すればこうなる、民主主義の歴史的な勝利と言ってもいいだろう。

中国をめぐる国際社会の雰囲気は「付かず離れず」といったところだろう。いあやむしろ「離れず付かず」の方が的をいているかもしれない。経済的には中国に寄り添いたい国が多い。一帯一路をみるまでもなく中国マネーに対する期待は東南アジアで大きく膨らんでいる。とりわけ新興国の多くはインフラ投資に向けた中国の積極的な支援をあてにしている。先に開かれたASEAN首脳会議。各国首脳の中には中国の南シナ海進出を懸念する一方で、経済的な期待感から中国との親密感を大切にしている人が結構あるようにみえた。軍事的、経済的拡張主義を警戒しながらも、中国に近づこうとしている勢力は広がりつつある。必然的にこれまで東南アジアで影響力を維持してきた米国との距離感が問題になってくる。

東南アジアに限っても多くの国々が中国と米国を天秤にかけようとしている。GSOMIA破棄を一旦は決めた韓国もその一端を担いているのかもしれない。米国をとるか、中国に寄り添うか。東南アジアの各国首脳がいま頭を痛めているのがこの点ではないか。トランプ大統領の登場によって協調路線を放棄した米国は、「アメリカ一国主義」に閉じこもろうとしている。一方の中国は一帯一路やAIIB(アジアインフラ投資銀行)を繰り出して各国の関心を惹きつけている。関税を引き上げて中国の経済的発展にブレーキをかけようとしている米国だが、中国の強烈な抵抗にあって苦戦を強いられている。潮の流れは中国になびきそうな雰囲気すらある。そんな中で香港で反中国派・民主派が地滑り的勝利を納めたのである。中国に傾きつつあった天秤は、この勝利によって揺れ戻しが始まるのかもしれない。