マスクは品薄状態が続く(写真:アフロ)

 安倍晋三首相は1日、新型コロナウイルスの感染拡大防止策の1つとして再利用可能な布マスク2枚を各世帯に配布すると表明した。アベノミクスをもじった「アベノマスク」なる造語がトレンド入りするなど話題を集めるが、世の中のマスク不足は一向に解消される気配がない。

 菅義偉官房長官は3月27日の会見で「マスクの品薄解消には一定の時間を要する」と話した。4月には前月比1億枚を上積みする月間7億枚を供給できるとの見方を示したが、街中のドラッグストアなどでは依然として欠品が続いている。毎朝開店前にマスクを求めてドラッグストアの前に行列ができる光景も珍しくない。「卸に発注をかけても、ろくな量が入ってこない。店舗からのオーダーにも応じられない」と中堅ドラッグストアの担当者は嘆く。

 経済産業省は2月に、国内でマスクの生産設備を導入する企業に補助金を出す方針を示し、シャープなどが応じて話題となった。それでも品薄が続くマスク。国内の主力メーカーに現状を聞いた。

各社とも増産はしているが…

 話題の「アベノマスク」要請を受けて布製マスクを増産しているのが、医薬品メーカーの興和(名古屋・中区)だ。ガーゼを15枚重ねた仕様のマスクで、3月には月産1500万枚、4月には同5000万枚規模の生産を目指すとしている。同社は不織布マスクも国内外で生産しているが、こちらも品薄に対応すべく月産1200万枚規模の増産体制を敷いている。

 マスクの全量を中国の深センで生産する白元アース(東京・台東)は3月、政府要請に応じて本州にあるマスクの在庫を新型コロナウイルスの感染が拡大した北海道に送った。また「バス会社などの交通・運輸事業会社向けに優先的に供給した」(担当者)という。国土交通省の要請では10万枚を各地のタクシーやハイヤー会社に振り分けるなど、優先順位をつけて供給している。

 新規参入が話題となったシャープは3月31日にマスクの出荷を開始。当初は日産約15万枚ながら、今後は約50万枚を目指すとするが、まだ出荷を開始したばかりで、当面は政府などに売り先を限定する見通しだ。

 販売するマスクの9割以上を国内製造するユニ・チャームの国内生産量は月産1億枚と多い。「通常の生産量の倍程度」(広報担当者)とフル生産を続けている。さらに遊休設備を活用したさらなる増産体制を整備しているという。

 国内で大規模な増産に打って出るのが、アイリスオーヤマ(仙台・青葉区)だ。中国の大連や蘇州にある工場では月産8000万枚を製造して全量を日本に向けて輸出している。アイリスの大山健太郎会長はマスク不足を敏感に察知し、国内で生産するための機械を押さえたという。国内では宮城県角田市の工場で生産し、6月をめどに生産を開始して月産6000万枚体制を築く。

 大山会長は、東日本大震災の際に原子力発電所の停止からいち早く電力不足を予想してLED電球の増産を被災地から指示した。LED事業の拡大が契機となり、その後の家電事業への本格参入につながった。自身の信念である「ピンチをチャンスに」を地でいく意思決定と言えそうだ。

 需要増が短期で収束するのか長期に及ぶのか判断に迷い増産に踏み切れなかった各社とも、長期化のシナリオに傾き、増産に舵(かじ)を切っている。国による補助金も増産や新規参入を後押ししている。だが、平時と比べて利用者がけた違いに増えているのに加えて、そもそも消耗品であるマスクは日々消費されており、需要に応え、追いつき、十分に満たすまでには相応の時間を要する。医療や運輸などの関係者向けに優先的に出荷する企業や政府による買い上げに応える企業もあり、増強した生産能力がそのまま一般市場への供給につながりにくい。

 「マスクはどこへ?」の狂騒は、しばらく続く可能性が高そうだ。

[日経ビジネス]