白人警官が黒人男性を無理やり拘束し、窒息死させた事件を契機に全米で人種差別に抗議するデモが広がっている。けさの朝日新聞によるとデモは全米140都市に拡大した。トランプ大統領はデモの鎮圧に向けて軍隊の出動を辞さない構えを示している。コロナウイルスの感染拡大阻止を目的としたロックダウン(都市封鎖)が徐々に緩和されようとしている矢先、今度は人種差別に抗議するデモの拡大で、米国は全土で都市機能が麻痺しつつある。複層的な危機が重なっている米国。トランプ大統領は再選に向けて、また一つ危険信号が加わったことになる。

今回に事件についてメディアは大々的に人種差別への抗議拡大と報道している。確かにその要素は色濃い。自動車の陰で犠牲となったジョージ・フロイドさん。白人警官が彼の首根っこを右肘で押し付け、「苦しい」と叫ぶジョージさんを無視して圧迫し続けた。傍目にも白人警官に殺意が滲んでいるような気がした。このシーンをみれば全米で人種差別に抗議するデモが起こるのは当然だろう。アメリカ人ならずとも、これまで何度もテレビを通して黒人に対する差別的な扱いをみてきた。それが今度は殺人事件として全米、いや全世界に映像が配信されたのである。米国に蔓延する抜き差しならない人種差別。目を背けたくなるほど悲劇的な現実だ。

だが、全米に広がった怒りの矛先はそれだけではないと思う。新型コロナウイルスに感染した米国人は180万人近くに達している。感染者の数はダントツで世界一だ。専門家によればウイルスは、貧富に関係なく誰にでも平等に感染すると解説される。果たしてそうだろうか。感染者の所得階層別内訳といったデータがないからわからないが、感染者の内訳は圧倒的に貧困者の割合が多いと思う。富裕層は早くから安全地帯に逃避している。これに対して貧困層は清潔でなく、3密に覆われた生活環境に押し込まれている。こうした環境がウイルスの感染拡大を後押ししている。人種差別に格差拡大が加わったことが、デモ隊のエネルギーを倍加させているような気がする。