安倍首相が突如退陣を表明したのが8月28日。あれからまだ1週間しか経っていない。にもかかわらずポスト安倍は菅官房長官に決まってしまった。自民党では一昨日まで総裁の選出方法をめぐって激論が戦わされていた。完全な形の総裁選(党員投票を行う)か、簡易型の両院議員総会か、党内の空気は若手を中心に圧倒的に党員投票の実施を求めていた。もちろんメディアもコメンテーターも、そのほとんどが党員投票を含む総裁選を実施すべきだと論陣を張っていた。それが民主主義のあるべき姿であるという点では全く異論はないが、その一方で目先の論点だけを追い求めた結果、1週間もかからないうちに後継総裁が事実上決まるというスピード感に誰も疑問を挟まなかった。コロナ対策で後手後手に回った安倍政権としては異例の速さだ。個人的にはこっちの方が問題だと思っているのだが、これまでの報道を検証する限り、安倍首相の退陣と後継に菅官房長官を起用する方針は「相当前に決まっていた」という気がする。

理由は情報収集能力に長けた菅官房長官が総理の異変に気づかないはずがない、その1点だ。思い返せば安倍首相の健康不安説を最初に取り上げたのは、写真週刊誌の「FLASH」だ。8月4日発売号で「首相が執務室で嘔吐した」と報じたのである。嘔吐したのは7月6日とされている。首相の定期検診は6月13日である。ここで潰瘍性大腸炎再発の可能性が指摘され、約1カ月後に具体的な症状が現れた。その約1カ月後の8月17日、今度は慶應病院で7時間半に及ぶ検査を受けた。翌週の24日にも2回目の検査を受けている。定期検査から1カ月ごとに事態は悪化している。この間、菅官房長官は「(首相は)淡々と職務に専念しており、全く問題はない」と国民に説明している。それが官房長官の職責とはいえ、この間、菅氏が首相の異変に気づかないわけがない。安倍首相が菅氏に直接自分の健康状態を説明したかどうか分からない。だが、いまから振り返れば、首相の健康状態が悪化する中で菅・二階の二人はポスト安倍に向けて動き出していた。

「安倍の次は安倍」と言って憚らなかった二階幹事長は6月8日、石破氏のパーティーに出席し「期待の星の一人だ」と持ち上げている。1カ月後の7月2日に今度は岸田氏と会食、「前途洋洋だ。次を期待している」とくすぐっている。もちろん菅官房長官とも折に触れて会談していた。先を読んで行動するのが優秀な政治家だとすれば、二階氏は稀に見る能力を備えていることになる。この間、二階幹事長に情報提供していたのは菅氏ではないか。管・二階ラインは相当早くから安倍首相の健康状態を把握、ポスト安倍の政局に備えていた。もっといえば昨年5月、管氏は訪米してトランプ政権の要人と会談している。ポスト安倍はこの頃から動き出していた可能性もある。オリンピック後の退陣は既定路線だった。以上は単なる個人的な妄想に過ぎないが、石破潰しとか、派閥政治の復活とかメディアが連日報道している視点では、この政局の真実は見えてこない。ひょっとするとこれは菅・二階のクーデターかも知れない。米中関係も険悪の度を増している。安倍政治継承の裏に隠されている本当の狙いは何か。メディアはそこを抉り出すべきだ。