トランプ、バイデン両氏による1回目のテレビ討論会が29日に行われた。ニュースで見る限り討論というよりも両者の怒鳴り合いといった感じで、90分間に及んだこの政治ショーを見せられた米国の有権者はさぞ落胆したことだろう。メディアの評価も散々だ。CBSニュースの視聴者調査によると、69%が「不快感を感じた」とし、19%は「悲しくなった」と討論会について語ったという。当のバイデン氏が「国家的な恥さらしだった」(ブルームバーグ)といえば、トランプ氏は「司会を努めたFOXニュースのウォレス氏を批判した」(ロイター)という。当事者2人は自分の責任を棚にあげるが、大統領候補のテレビ討論としては「史上最悪の討論会」との見方が支配的だ。そんな中でメディアではバイデン氏にやや分があったとの見方が大勢のようだ。ひょっとすると勝者は司会を務めたFOXニュースのクリス・ウォレス氏だったかもしれない。

個人的にはちょっとやりすぎだが「いつものトランプ氏」と、期待に答えない「ひ弱なバイデン氏」という印象を受けた。この二人の姿を有権者はどうみたのだろうか。トランプ氏の熱烈な支持者は、ひ弱なバイデン氏をやり込めるトランプ氏をみて納得したのではないか。メディアが指摘するほどトランプ氏は評価を下げていない気がする。同氏の支持層はもともと強くてエネルギッシュな大統領が好きなのだ。ディベートの中身なんてどうでもいい、相手を打ちのめすパフォーマンスに注目しているのだ。片やバイデン氏。社会主義者を自認するサンダース氏の熱烈な支持者が後ろに控えている。バイデン氏はそのサンダース氏と政策協定を結んで民主党候補者を勝ち取った。その意味で中道左派のバイデン氏は、トランプ氏が極左と攻撃するサンダース氏を熱烈に支持する若者を意識する必要があった。今回のテレビ討論の最大の注目点はここだろう。果たしてバイデン氏は若者たちの心を捉えたのか。

JBpressが配信した「『最もカオスな討論会』で明らかになった事実」という記事をみて驚いた。バイデン氏はサンダース氏との政策協定に入っていたグリーン・ニューディール(GN)を「サポートしない」とこの討論会で表明したというのだ。なんということだ。民主党左派の1丁目1番池ともいうべきGNを拒否して、サンダース支持者は納得するのだろうか。それ以上に、一度決めた政策協定を反故にしていいのだろうか。まだある。トランプ氏は白人至上主義を顕にしたとメディアで批判されているが、この記事によるとバイデン氏は「ブラック・ライブズ・マター」(BLM)に対する態度を鮮明にしなかったとある。あの大坂なおみは棄権発言撤回後、BLMと印刷されたTシャツを着て準決勝の舞台に登場した。トランプ氏に当てつけた納税申告書の公開など、ポピュリズムともいうべきパフォーマンスで本当に米国の、いや世界の危機が救えるのか。期待しているだけに“ひ弱な”バイデン氏に落胆することが多いきょうこのごろだ。