アルゼンチンの英雄、いや世界のスーパースターといった方がいいだろう。サッカーの元アルゼンチン代表、ディエゴ・マラドーナが亡くなった。60歳だった。まだ若い。死因は心不全。朝日新聞デジタルによると「数週間前に硬膜下血腫の緊急手術を受けていた」という。同紙を引用しよう。「ワールドカップには1982年スペイン大会から4大会連続で出場。86年メキシコ大会でアルゼンチンを2回目の優勝に導いた。『神の手ゴール』や『5人抜きゴール』など伝説的なプレーも残した」とある。フェルナンデス大統領はマラドーナの死を受け、全国で3日間の服喪を宣言。ツイッターで「あなたは私たちを世界一高いところまで連れて行き、私たちを計り知れないほど幸せにしてくれた。あなたは最高の存在だった。私たちと一緒にいてくれてありがとう」と記した。

もう一人の神様、元ブラジル代表のペレ(80)は「いつの日か空の上で一緒にボールを蹴ろう」と短い声明を発表した。ペレはマラドーナより20歳も年上だ。若き後輩の死をどれほど悲しんでいることか、短い声明文が多くのことを語っている。個人的には「神の手ゴール」と「5人抜きゴール」の記憶が鮮明に残っている。両方とも86年のワールドカップ、メキシコ大会だったと思う。「神の手」はLIVEで試合を見ているときは全くわからなかった。試合が終わったあと、ビデオでマラドーナの手がボールに触れた映像が何回も繰り返し放映された。いまなら主審がピッチ上で両腕を使って四角を描き、ビデオ判定に持ち込まれてノーゴールの判定が下るだろう。だが当時、マラドーナのゴールに世界中が見惚れていた。

「5人抜き」のドリブルゴールはもっと凄かった。センターライン付近でボールを受けたマラドーナは、そこからドリブルで次々に敵のディフェンスを抜いていった。日本流にいえばまさにゴボウ抜きだ。挙げ句の果てにペナルティーエリア内で最後のディフェンスをかわしてシュート。おそらくあのシュートを上回るゴールシーンは、私が生きている間に二度とみることはないだろう。にわかサッカーファンにすぎない私でも、あのゴールの凄さに身体中が震えた。マラドーナが現役として成し遂げたもの、それは一言で言えば“偉業”だ。いやそれ以上かもしれない。その価値は“神業”に近い。現役引退後のマラドーナは麻薬に病気に喧嘩に、何かと話題を提供してくれた。だがそんなことはどうでもいい。世界中の人々の記憶の中に“神業”が焼きついていればいい。