バイデン大統領から財務長官に指名されていたジャネット・イエレン前FRB議長が上院で承認された。7年前に女性として初めてFRB長官に指名されたが、今回は米憲政史上はじめての女性財務長官の誕生である。夫はノーベル経済学賞受賞者。米国を代表するエリートであり、今後4年間、コロナ禍で混乱する米国経済のみならず世界経済の舵を取ることになる。現在の経済情勢は複雑に入り組んでいる。あちらを立てればこちらが立たず。利益相反がいたるところに存在し、国内外のあらゆる分野で利害が対立している。正直言って78歳のバイデン大統領に奇々怪々とした世界経済の建て直しを託すのは無理だろう。その分イエレン氏に負担がかかる。民主党と共和党が対立する議会の調整も同氏の双肩にかかってくる。ある意味ではバイデン大統領より重い職責を担うことになる。

イエレン財務長官は先週行われた上院財政委員会の指名承認公聴会で、追加のウイルス対策について次のような発言をしている。ロイターによると「大きく行動するよう呼び掛け、債務拡大につながっても恩恵は代償を上回るとの考えを示した」。民主党はもともと大きな政府を掲げており、積極財政論そのものは党の方針でもある。だが、共和党との間で追加対策の規模をめぐって対立している中で「大きく行動する」ことが大事と言い切ったことに、個人的なサプライズがあった。さらに、この対策で米国の債務が拡大することはバイデン氏と共に承知していると指摘。「ただ、金利が歴史的な低水準にある現在、大きな行動に出ることが最も賢明」とし、「特に長きにわたり苦しんできた人たちを支援することを踏まえると、恩恵は代償を大きく上回る」と述べっている。まるでMMT派の理論を先取りしているかのようだ。これからイエレン氏の発言を注意深く見守る必要がありそうだ。

それに引き替えと言っては失礼かもしれないが、日本では麻生財務大臣の「孫子の代に借金を増やすのか」といいう発言がネット上で批判を浴びている。同発言は先週末の記者会見で飛び出したもの。特別定額給付金(10万円給付)の再交付を求める声が強まっているとの記者の質問に答えたもので、再交付の可能性を否定する狙いがあった。麻生氏は定額給付金については以前から「預金が増えるだけで消費は活性化しない」と否定的な見解を述べていた。そうした側面があることは否定しないが、この問題の根っこにあるのはコロナ禍で困窮する国民にどうやって手を差し伸べるか、その一点にある。その答えが財政再建優先では、孫子の代も救われないだろう。同氏のカウンターパートナーであるイエレン氏は、「長きにわたり苦しんできた人たちを支援する」とはっきり述べている。それこそが財政の本質的役割ではないか。