米大統領選挙を見ながら米国は実に「不可思議の国だ」という印象を強くした。トランプ元大統領が主張する「盗まれた選挙」は共和党内部にも異論があったが、主要なメディアはロイターを筆頭に「この主張に根拠はない」と一顧だにしなかった。主要メディアは「盗まれた選挙」の是非を判断したわけではない。徹底的に無視したのだ。同じように議論が噛み合わない問題は山ほどある。いちいち数え上げたらキリがないが、今朝、ブルームバーグが伝えた以下の記事、「ロビンフッドのユーザーが猛反発、ゲームストップ取引制限に抗議」という記事もその類だ。個人投資家に株式の取引機会を提供するプラットフォームとして人気がある「ロビンフッド・マーケッツ」という会社が28日、ビデオゲームの小売りで急成長している「ゲームストップ」という会社の株式取引について制限に踏み切ったというのだ。

取引所が株価の急激な変化に対応して取引を制限することはよくある。公設であろうが私設であろうが、株価の乱高下を防ぎ取引の安定性を維持するのは取引所の責務だろう。問題はこの制限について一部の投資家が提訴に踏み切ったことだ。そのうちの一人は提訴の理由として「(取引停止は)個人顧客を犠牲にして機関投資家を保護するものだ」と指摘している。なぜこれが機関投資家の保護になるのかよくわからないが、民主党のアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員(ニューヨーク州)はツイッターで、取引制限を「容認できない」と非難。下院金融委員会での公聴会開催に前向きな姿勢を示したとブルームバーグは伝えている。公聴会が開催されるかどうか現時点ではっきりしないが、私設取引所の取引制限が連邦議会のテーマとして取り上げられるとすれば、それはそれで大きな問題だろう。保守と革新の間に横たわる溝と同じように、個人投資家と機関投資家の間にも利益相反といった問題があるのだろうか、それはそれなりに大きな溝になる。

バイデン政権は発足直後から数多くの大統領令を発出している。就任初日にはたしか17の大統領令に署名した。今日時点その数は30を大幅に超えているようだが、歴代政権の就任当初に比べると圧倒的に多いという。大統領令の大半は「反トランプ」を明確にするものでパリ協定や WHOへの復帰、脱炭素戦略、カナダとのガスパイプライの建設停止などが含まれる。米国ではオバマ、トランプ、バイデンと政権が変わるたびに政策が180度転換する。まるで韓国の保守と革新の政権交代のようだ。日本でも一昔前は「猫の目農政」など一貫性を描いた政策変更に批判が集まった。超大国から転落しつつある米国は今そんな状態に逆戻りしつつあるのだろうか。そこに DS(ディープ・ステート)が絡んでいる。国民を無視して政治家と金融資本、ビックテックにメディアが国家の運営権を支配しようとしているのだとすれば、「不可思議の国」と呑気なことは言っていられなくなる。