驚いたというより呆れたというか、うんざりというか、怒り心頭に発したというのが正直なところだ。何に対して怒っているのか、きのう田村厚労相が発表した新型コロナウイルスの接触アプリ、COCOAに不具合が見つかったというニュースだ。この怒りは誰にぶつければいいのだろうか。責任者の田村厚労相か、就任前に発注したシステムである。結果責任はあるとはいえ、アプリの開発仕様にどこまで絡んでいるのかわからない。開発したメーカーに責任があるのは当然だ。詳細な情報がないからなんとも言えないが、最終的な責任者は菅首相ということになるだろう。全てを統括する総理大臣である。結果責任を問われるのは当たり前のことだ。だが、それ以上にもっと大きな責任者がこの国にはいると思う。それは誰か?COCOAの開発目的を決め、プロジェクトの指揮をとる責任者だ。それは誰?思いつかない。この状態が最大の責任者だ。

台湾政府でデジタル担当大臣を務めるオードリー・タン氏(Audrey Tang、唐鳳)のことがすぐに頭に浮かぶ。COCOAを使って日本政府は何をしようとしたのだろうか。近距離で陽性者と濃厚接触した陰性者に注意喚起を促し、あわよくばこのアプリでクラスターの発生地域を特定できないか、素人でもそれぐらいの開発仕様は思いつく。個人情報保護に抵触しない範囲で個人の行動履歴を追跡すれば、陽性者との接触点が浮かび上がる。それをビックデータにすれば、個別の飲食店までは無理としてもどの飲食街でクラスターが発生しているか、浮かび上がらせることも可能だろう。時短営業を“強要”しなくても、COCOAのインストールを義務付けるだけで感染防止対策になるかもしれない。政府もそんなことは百も承知だろう。水面下ではCOCOAで収集したデータを使い、個人情報保護法ギリギリの分析行なっているのではないのか。誤解されるかもしれないが、それが常識だろう。

ところが、COCOAの不具合は昨年9月以来4カ月も放置されてきたのだ。アプリを作ればそのあと毎日システム監視が行われているはずだ。情報分析を伴うとすれば監視とデータ収集は不可欠だ。それが実行されていれば4カ月にわたって不具合が見過ごされることはない。このアプリの開発にどのくらいの予算が投入されたかわからないが、きのう明らかになったことは「ただアプリを作っただけ」、それが実態だということだ。感染通知しないCOCOAは単なる付け焼き刃に過ぎない。ことほど作用に日本政府が取り組んでいる新型コロナの感染拡大防止策には戦略も戦術もない。行き当たりばったりのその場凌ぎに過ぎないということだ。きのうは一連のコロナ対策関連法の改正案が与野党合意の上で成立した。これも多分COCOAの同類だろう。機能しないどころか不具合に誰も気づかない。怒りを通り越して空いた口が塞がらない。