米国の長期国債利回りの上昇が、世界的な金利上昇懸念を招いている。日本も例外ではないようだ。先週は10年国債利回りが一時0.175%まで上昇した。これはマイナス金利が導入された2016年1月以来の高い水準とのこと。コンマ以下の出来事とはいえ、5年ぶりの長期金利の暴騰といっていいだろう。金利は限りなくゼロに近いというのが昨今の常識だが、この常識が打ち破られる可能性があるのか、ここが当面の焦点だ。個人的には一時的な波乱だと思っているが、それでもこの機会に金利とか物価について考えてみるのも悪くはない気がする。金利が本格的に上昇に転じるとすれば、世界的な経済の低迷にブレーキがかかる可能性があるかもしれない。同時に低金利が常識化している我々の日常生活にも大きな影響が出てくる可能性もある。

金利上昇の原因はコロナウイルスの感染拡大。ロックダウンや緊急事態宣言の発動などで、世界的に経済が落ち込んでしまった。それを支えるために日米欧をはじめ世界中の国々が緊急経済対策と称して巨額の財政支出に踏み切っている。とりわけすごいのが米国。トランプ大統領時代に2度にわたる緊急支援策が実施されたが、バイデン政権になってこの動きが加速。先週は1.9兆ドル(日本円で約200兆円)という大規模な追加対策が下院で可決された。日本の特別定額給付金に相当する個人に対する財政支援策も盛り込まれており、家計にはポストコロナで動き出す消費意欲が過剰に蓄積されている。ワクチンの接種が始まりコロナの感染防止に楽観的な見方が増えてきた。そうなれば過剰貯蓄が動き出す。家計が物価を押し上げるというのだ。

ある意味で予想された動きだ。財源はすべて国債で賄われている。一昨年話題になったMMT(現代貨幣理論)の理論通りの動きだ。米国の主流派は当時この理論を「異端」と称して蔑んでいたが、ちゃっかり借用してコロナ対策に取り組んだわけだ。MMTはもともと「物価が上昇しない限り」国債は無限に発行できると主張していた。問題は国債の増発に伴って金利が上昇傾向を強めていることだ。この動きが一時的なもので終われば当面問題はないが、本格的に物価や金利が上昇に転じた時、その対策はまったく検討されていない。バイデン政権は近く1.9兆ドルの次のインフラ投資など、今後4年間に取り組む巨大な投資計画を発表する。トランプ時代にまさるイケイケドンドン政権でもある。おそらく増税は不可避だが、そこにはトランプ共和党が立ちはだかるだろう。コロナに隠れているが、物価上昇懸念が深刻になる可能性がないとはいえない。