週末に考えさせられる記事を読んだ。ロイターが1日付で配信した以下の記事だ。「焦点:EV向け資源開発に自然破壊の懸念、温暖化対策の足かせにも」。かいつまんで言うと、ネバダ州北部の乾燥地帯に、ここにしかない蕎麦の花が咲いている。その花が一夜にして枯死したというのだ。この花は地元の植物学者の名前に因んで「ティエムのソバ」と命名されている。不思議に思った地元の環境保護団体が調査、するとこの花の地下にはEV(電磁自動車)のバッテリーに不可欠なリチウムの鉱床が眠っていることが判明。その開発を検討している企業(オーストラリア企業イオニア)に疑いの目が向けられた。環境団体は「ティエムのソバ」が「掘り返され(植生が)破壊された」と主張、訴訟提起に至った。リチウムはEVにとって不可欠。グリーン成長を目指すバイデン政権にとって自国内での鉱床開発は必須条件だった。

グリーンニューディールを最優先課題に掲げるバイデン氏は、大統領選挙中から環境対策を柱にした経済成長を公約してきた。ロイターによると同氏は環境団体をはじめとする環境保護派を優遇すると同時に、労働組合を意識して鉱山開発企業にも良い顔をしてきたという。環境派には環境保護を約束、開発企業には連邦政府が所有する土地や海域での開発を従来の3倍に引き上げると公約してきた。その約束が「ティエムのソバ」の訴訟によって真っ向から対立することになったのである。レアアースの国内開発推進には裏がある。レアアースの世界供給の8割を中国が占めている。コロナの感染拡大で希土類や生活必需品の中国依存は安全保障に直結する。そんな反省からバイデン政権でも、レアアースの国内開発を推進する方針をとっている。その国内開発が環境保護とバッティングしているのだ。

世界中がカーボンニュートラルに動き出している。動力源も太陽光や風力など再生可能エネルギーへの転換が叫ばれている。自動車もガソリン車は遅かれ早かれEVに取って代わられる。それが時代の流れであり、地球温暖化回避の最低条件でもある。それはそれでいいのだが、ガソリン車をEVに切り替えるには気が遠くなるような鉱山開発が必要になる。レアアースだけではない。EVが使う電力を誰がどうやって生産するのか。そしてその膨大な生産のために想像を絶する開発エネルギーが必要になる。太陽光は夜間には発電できない。昼発電した電気を蓄電する装置の開発も必要になるだろう。そのためにまた膨大な開発が伴う。米中関係が改善しても問題は解決しないだろう。新たなエネルギー開発には新たな環境破壊が伴う。バイデン政権はこのジレンマをどうやって解消するのだろうか。記事を読みながら頭の中で人類と地球が直面する危機が堂々巡りしていた。