注目された米中の外交責任者による対面形式の会談が先週末に終了した。世界中のメディアが報道しているように、会談は冒頭で大荒れとなった。原因は中国の楊潔篪共産党政治局員(外交担当責任者)。事前の約束(冒頭2分間ずつ発言する)に従ってブリンケン国務長官がスピーチ。協議開始に当たり同長官は「最近のサイバー攻撃や新疆ウイグル自治区でのイスラム系少数民族の扱い、中国の香港支配強化に関する懸念を提起する意向を表明。中国の行動は国際秩序と人権を脅かしていると非難した」(ロイター)。事前に伝わっていた内容通りの挨拶、おそらく中国も概要は承知していたはずだ。ところが事態はこのあと急変する。楊氏は自分の番になって約束の2分を超え15分にわたって米国を非難するスピーチを展開したのである。外交上前例のない非礼な振る舞いと非難されてもおかしくない行動だった。

ロイターによると楊氏は以下のような内容のスピーチを延々と続けた。「米欧諸国が国際世論を代表しているわけではない」、「米国はサイバー攻撃のチャンピオンだ」、「アフリカ系米国人の殺害や人種差別反対運動、ブラック・ライブズ・マター(BLM)に言及」、「多くの米国民は自国の民主主義をほとんど信頼していない」など、米国を具体的な事例を挙げながら非難した。これ以外にも習近平総書記を礼賛する発言なども行なっている。こうした発言は誰が見ても米国民向けというより中国国内向け。約束破りを承知の上でテレビカメラの前で対米批判の大演説を打ったのだ。中国国内では楊氏を礼賛する報道が、国営メディアを通じて全国に流されたという。今回の米中会談は16日に日本、翌17日には韓国で行われた外務・防衛担当閣僚会議(2プラス2)の後に開かれた。会談場所も北京ではない。アラスカ州である。米国は中国をわざわざアンカレッジまで呼びつけたのである。

中国から見れば内心面白くなかっただろう。だが、そんなことはお首にも出さず、会談を受け入れている。メディアは関係改善を望む中国の意向と報じた。そんな不満が上から目線ともいうべき楊氏の発言につながったのかもしれない。不承不承米国の要求を受け入れながら、会談冒頭で大逆転の一手を打った。そんな思惑が冒頭の波乱劇に込められていたのかもしれない。一方のブリンケン氏、TVで見る限り楊氏の不規則発言を黙って静かに聞いていた。約束を破った楊氏に「どうして抗議しないのだ」、不思議な気がした。スタッフが差し入れたメモを見て反論を開始するのだが、間髪を入れずに席を立つなど中国側に抗議すべきだったのでは。結局この会談。冒頭の対立以外に大きな話題はなかった。むしろ「国益にかなうなら中国と協力する」とした大統領の外交演説(2月)の通り、気候変動に関する共同作業グループ設置で合意している。バイデン政権は本当に中国に対して“強気”なのだろうか。