ロイターによると、米国務省のプライス報道官は5日、ロシア軍のウクライナ国境付近での動向をめぐる情報は信用できるとし、ロシアに対して「(こうした)挑発的な行動」の説明を求めたこと明らかにした。最近、ウクライナ東部の親ロシア派が実効支配している地域に対して、ロシア軍が支援を目的として部隊を増強していると一部メディアが報道している。こうした情報は「信用できる」と強調したのが国務省報道官の発言である。この発言に対してロシアのリャブコフ外務次官は「米政府の『根拠のない』懸念は必要ない」との考えを示したと、この記事を付け加えている。いずれにしろ、ウクライナとロシアの関係がここにきて再びきな臭くなっている。こういう記事を見て直感的に思うのは、ウクライナの国際政治舞台への再度登場ということだ。

ことの発端は米政権の交代だろう。トランプ大統領はロシアによるクリミア半島併合など、ウクライナに対するロシアの強行政策に寛容な態度を示してきた。おそらく中国を封じ込めるために、プーチン大統領との関係を維持しようとしたのだろう。これに対してバイデン氏の心情は親中国、反ロシアと見られている。習近平首席が副首相だった時代に副大統領だったバイデン氏は習氏と親密な関係を築いたが、プーチン氏とはロシアの大統領選挙介入などを背景に疎遠だった。逆にウクライナとは、次男のウクライナ疑惑を持ち出すまでもなく、極めて近い関係にあったとされている。就任直後の2月には「(クリミア併合を)米国は認めていないし、今後も決して認めることはない」(時事通信)、「ウクライナと共にロシアの侵略行為に立ち向かう」(同)との声明を発表している。

プーチン大統領はバイデン政権を牽制するために親ロシア派を支援しているだけかもしれない。だが、ウクライナのゼレンスキー大統領にしてみれば、強力な「後ろ盾」(同)を得たことになる。クリミア奪還に強気になったとしても不思議ではない。ウイグル、香港、台湾、北朝鮮についで、新たな国際紛争の火種が燻り始めたわけだ。それにしても、中国を封じ込めるためにロシアを利用しようとしたトランプ大統領に対してバイデン大統領は、中国との関係改善を図りながらロシアを封じ込めようとしていたように見える。だがウイグルの人権問題を機に政権全体が反中国で固まってしまった。人権問題に火をつけたのはポンペオ前国務長官で、大統領就任式前日の1月19日、ウイグル問題は「中国によるジェノサイド」と決めつけた。後任のブリンケン国務長官もこれに全面的に同調し、人権外交が一気に表舞台に登場する。いま思えばこの発言、最初からバイデン大統領と中国のデカップリングを狙っていたのかもしれない。