注目されていたFOMC(連邦公開市場委員会)でFRBのパウエル議長がインフレ・ハト派からタカ派に変身した。といってもまだ、「導入した政策の変更を検討するまでには『しばらく時間がかかる』という認識を示した」(ロイター)との解説もあり、インフレ対応という意識が頭の片隅に芽生えた程度の話だろう。いずれにしてもFRBのスタンスが変わりはじめたことは間違いない。インフレに対する見方が分かれていた金融当局と市場の溝(見解の相違)が縮まるだけでなく、世界経済全体がこの先インフレ含みの景気回復をたどる可能性が大きくなった。長らく続いたデフレはこれで終焉を迎えるのだろうか。まだわからない。一時的かもしれない。水面下でサプライチェーンに構造変化が起こっている可能性もある。インフレをめぐる議論がこれから本格化するだろう。

コロナ禍で需給関係が乱れた典型的な商品はマスクだ。急激な需要の拡大に生産が追いつかず、一箱1000円以下だったマスクが1枚で何百円もするという狂乱物価が出現した。自動車用の半導体が品不足に陥ったのも同じ理屈だ。テレワークが浸透してパソコンやスマホの需要が予想を超える規模で急拡大した。半導体メーカーは利益率の高い高機能半導体に生産をシフト、その結果自動車用半導体に手が回らなくなった。当初自動車の生産も落ち込むと見られていた。だが、あにはからんや、安全な移動手段として自動車の需要は急拡大したのである。こうなれば自動車用の半導体が不足するのは時間の問題。生産工程が複雑な半導体は、需要の急拡大に臨機応変に対応できない。半導体不足は日本だけでなく、世界的な規模の構造問題になってきた。

同じような傾向は最近のウッドショックにも見られる。木材価格が急騰しているのだ。コロナ禍やテレワークの浸透で米国では郊外での住宅需要がものすごい勢いで盛り上がっている。供給拡大がすぐにはできない木材製品はあっという間に品不足に陥る。こうなると本来は日本に輸出するはずだったカナダ、北欧などの業者も、高い買い値を提示する米国を優先する。アメリカファーストだ。マスクと同じことが起こる。木材の輸入大国である日本は、価格の急騰と品不足で右往左往することに。インフレは通貨の量ではなく物品の需給関係によって起こる貨幣現象だ。インフレ要因は国によって異なる。米国のインフレは一時的だが、構造要因に起因する日本は長期化する可能性もある。構造要因とは平時の政策判断や経済運営によって積み上げられてきたものだ。ポストコロナ、変わらない、変われない日本は大丈夫か?