開幕を2日後に控えてもまだ東京2020五輪の負の連鎖が続いている。トヨタ自動車の豊田章男社長はきのう、オリンピック関連のCM放送を見送ると発表、同時に自らも開会式に出席しないと表明した。トヨタはパナソニックやブリヂストンとともに、東京オリパラの最高位スポンサーである「ワールドワイドパートナー」を務めている。言ってみればオリパラを代表する企業の顔だ。無観客になったことで、トップが開会式に出席しないことは不自然ではない。だが、最高位のスポンサーがCMを見送るのは異例だろう。産経新聞によるとトヨタは、「IOCなどに強い不信感」を抱いていたという。IOC、組織委員会、日本政府に東京都、オリパラを担う関係者の意思疎通がどことなくぎこちない。最後の最後にトヨタは、CM中止という形で不満を表明したのだろう。コロナ禍での異常事態であるとはいえ、東京2020五輪は最初から最後まで負の連鎖につきまとわれている。

森前会長の差別発言が契機になったというわけではないだろう。オリンピック招致の最終的なプレゼンテーションで当時の安倍首相は、福島第一原発の放射性物質について「アンダーコントロール」と胸を張った。だが、この言葉は当時国民が共有していた原発に対する「安心感」とは程遠いものがあった。オリパラの招致決定で日本中が湧いたのは2013年9月8日、ブエノスアイレスで開かれたIOC総会でジャック・ロゲ会長(当時)が「Tokyo 2020」と書かれたプレートを開封したあの一瞬だけだった。国立競技場の設計変更、エンブレムの盗作問題、巨額に膨れ上がった経費の削減問題、次から次へと難題が降り注いできた。挙げ句の果ては小池都知事の誕生である。同知事は民意を汲み取ると主張しながら、競技会場の地方分散を模索した。同知事の主張はほとんど実現しなかったが、関係者の間に亀裂を広げ、東京2020五輪の尋常ならざる未来を先取りしたことは間違いない。

ここにきて開幕式の音楽を担当していた小山田圭吾氏が辞任した。文化プログラムに出演する予定だった絵本作家の、のぶみさんが出演を辞退した。聖火リレーでは有名人やタレントが相次いで出走を取りやめている。海外メディアは「トラブルのない開会式への夢は打ち砕かれた」(英フィナンシャルタイムズ)、「新たなつまずき」(英BBC放送)など皮肉を込めて伝えている。国内外に渦巻く不安と不満。その絶好の捌け口となった東京2020五輪。10年先、20年先に振り返った時、なにを先取りしていたと受け止められるのだろうか。先進国の一翼を担っていた日本の固有の問題として理解されるのか、人類が直面した必然と受け止められるのか、20年先から眺めてみたい気もする。誰の責任なのか、誰も答えられない。コロナ禍ですっきりしない五輪に唯一答えを出せるのは、世界中から集まったアスリートだけだ。五輪を楽しむ、もうこれしかない。