コロナ禍で世界中の指導者が極度のジレンマに陥っている。経済を優先すれば感染者が増えるし、感染者を押さえ込もうとすれば経済が回らなくなる。感染が拡大すれば重傷者が急増し死者の数も増える。感染防止で経済を犠牲にすれば生活が破綻し自殺者が増える。そんな中で際立った手腕をみせるのがニュージーランドの若き指導者、ジャシンダ・ケイト・ローレル・アーダーン(Jacinda Kate Laurell Ardern)首相だ。1980年7月26日生まれの41歳。名前は長いが決断は速い。きのう首都ウェリントンで記者会見し、新型コロナウイルスの市中感染者が確認されたとして全土でロックダウン(都市封鎖)入りすると宣言した。感染が確認されたといっても、たった1人だ。デルタ変異株と確認されたわけでもない。同株が国内に流入したことを前提に厳しい措置を選択した。まさに先手必勝、究極の政治手腕だ。

パンデミックで世界中の政治指導者が支持率を急落させている。そんな中でアーダーン首相は数少ない支持率上昇派の1人だ。徹底的にコロナを寄せ付けないというのが基本戦略になっている。自由主義陣営では珍しいゼロ・コロナ戦略をとっている。今回も6ヶ月ぶりに1人の感染者が確認された。それでも全土でロックダウンに踏み切っている。時事ドットコムによると都市封鎖の期間は、市中感染が確認された最大都市オークランドなどが7日間、そのほかの大部分は3日間と短い。期間中の外出は近所での軽い運動や生活必需品の買い物などに限定される。スーパーなどを除き営業は停止され、学校も閉鎖だ。有無を言わさず、徹底的にやるのがアーダーン流。人口が500万人に過ぎないが小国だが、国民は納得して受け入れている。これも賞賛に値する。政治指導者の鏡のような決断力だ。

コロナ禍で世界中の政治指導者の力量が問われている。今朝のロイターに「コラム:コロナ禍で政権支持率に明暗」と題した記事が掲載されている。ソニーフィナンシャルホールディングスの尾河眞樹氏によるもの。それによるとG7にブラジルとインドを加えた9カ国首脳の支持率は1年前に比べて大半が急落している。冒頭に掲げたジレンマを解決できないことが原因。そんな中で英国のジョンソン首相とイタリアのドラギ首相の2人は、今年の1月比で支持率がわずかながらプラスに転じた数少ない指導者だ。ジョンソン首相は1日の感染者が5万人を上回っている時に規制の全面解除を決断している。ドラギ首相は2月の就任以来、感染者が減少している点が評価されているようだ。アーダーン首相を見るまでもなく支持される理由は政治決断の意図が明確な点だ。ちなみに菅首相は…、言うまでもないだろう。明確な決断に結果がついてくること、政治指導者の評価は極めてシンプルだ。