突風のように吹き荒れた解散風があっという間に萎んだ。菅首相が自ら否定したことによる。解散について首相はどんな嘘をついても許される。特別な決まりがあるわけではない。永田町やメディア、世間の間に暗黙の“了解”がある。きのうの否定会見もその類かと思いきや、どうやらそうではなさそうだ。首相は解散について嘘もつけないほど、周囲からガンジガラメに縛られている。この拘束力を解き放つ腕力はどうやらなさそうだ。首相の辣腕をもってしても思い通りに動かない現実、こうなると首相の力そのものが風前の灯のようにみえてくる。それをもう一度切り返す力、それがあるとすれば来週に予定されている人事だろう。大胆な人事で世間をアッと言わせれば、政権の求心力は再び高まるかもしれない。ポイントは幹事長。主流メディアにはちらほら名前が登場し始めた。

菅首相にはどうして嘘が許されないのか。谷垣グループ(有隣会)の代表世話人を務める中谷元防衛相はきのう深夜、日本テレビ系NNNに出演して次のように述べている。「総裁選の日程は決まっているし、(これを)個人の都合で勝手に変更すれば、自民党の信頼も失ってしまう」。解散は菅首相の個人的な理由によるもの、大義名分がないというわけだ。この解釈がまたたくまに党内および国民の間に浸透した。嘘にもきちっとした名目が必要なのだ。それがない上に解散なんて無理。菅首相には逆に、追い込まれ人がよくやる“悪あがき”風の印象がつきまとう。中谷氏は「人事で釣る」という方法もあると指摘しながら、「党員や国民がどう見るか、おそらく辟易すると思います」と。岸田氏はだから「要請されても絶対に受けない」と断言した。

辟易か起死回生か、党役員人事をめぐる水面下の動きが少しずつ漏れ出している。以下は毎日新聞。「河野太郎行政改革担当相(58)を要職で起用する調整に入った。政調会長が有力で、幹事長や官房長官も取りざたされる。石破茂元幹事長(64)を党要職で処遇する案も浮上した。知名度が高い河野氏らを重用する『目玉人事』で、党総裁選や衆院選前の政権浮揚を狙う」。産経新聞は「新幹事長は石破茂元幹事長、新官房長官は河野太郎ワクチン担当相か萩生田光一文部科学相。人事好きが集まる政界では早速、真偽不明の情報が飛び交っている」と永田町の雰囲気を紹介している。「約1カ月の短命に終わりかねない」との杞憂も漂っていると付け加えている。役員人事といえば過剰に盛り上がる永田町にはいまクールな風がただよっている。この風は何を先取りしているのだろうか。