2001年9月11日、日本時間でいえば明後日だが、国際テロ組織アルカイダのテロリストが米国で複数の民間機を乗っ取り、主要拠点に自爆テロを仕掛けた。いわゆる無差別同時多発テロの勃発である。この時のテロの様子は瞬時に全世界にテレビ中継された。ニューヨークの世界貿易センタービルに旅客機が突っ込み、晴れ渡ったニューヨークの空に黒煙がもうもうと立ち上っていた。あの時の映像はいまでも鮮明に脳裏に焼き付いている。黒煙と真っ赤な炎に包まれた同ビルはその後、なす術もなくてっぺんから崩れ落ちるように崩壊した。窓を開け黒煙と炎の狭間で、手を振りながら助けを求める人々の姿がテレビに映し出されていた。あの人たちもビルの崩壊とともに命を落としたのだろう、言いようのない無念さに襲われたことを覚えている。あれから明日で20年だ。

テロとの戦いは終息することなく、むしろ世界中に拡散した。アルカイダが拠点にしていたアフガニスタンではタリバンが復権した。歴史は前進しているのだろうか。20年という節目の年に、柄にもない“思い”が頭を過ぎる。あの日、自分は一体何をしていたのか、記憶はすでに定かではない。うつろながら覚えているのは、どこかのホテルで要人の記者会見がセットされていたこと。記者仲間と共に会場に向かっていたという記憶がある。要人が誰だったか思い出せない。ブルームバーグ通信社の創業者、マイケル・ブルームバーグだったような気もするが定かではない。会見の中身などまるで覚えていない。そんな中で鮮明に記憶に残っているのは、「これからどうなるのだろう」、仲間同士の会話がこの1点で堂々巡りしていたことだ。誰も答えられなかった。答えられるはずもなかった。答えは「その後の20年」の中にあった。

3000人を超える犠牲者を出した同時多発テロ。ブッシュ政権はテロとの戦いを宣言し、アフガニスタンに軍事侵攻する。イラクの独裁者・フセイン大統領を抹殺したのもこの戦いの一環だった。ブッシュの後を引き継いだオバマ大統領はテロの首謀者であるオサマ・ビン・ラディンを殺害した。ホワイトハウスで現地からの中継を見ていたオバマ大統領が、両手を挙げて喜んでいる姿がテレビで放映された。究極のポピュリズム、ビン・ラディンを殺害してもテロは終息しなかった。むしろ「過激派のこころを刺激したのではないか」。そんな杞憂は杞憂で終わらなかった。無差別テロは手段を選ばず、陰湿で姑息で罪のない市民を巻き込んで世界中に拡散した。テロとの戦いがテロを呼び、拡散するテロを抑え込む戦いが一段と激しさを増す。悪循環の繰り返しである。「あれから20年」、世界中がいまだに悪循環の中でのたうち回っている。