デルタ株の脅威などコロナ禍の世の中で、仕事を失った人や収入が激減した人が多いはずだが、米国では1170万人が貧困から脱出したという。米政府が果敢に実行した現金給付などパンデミック支援策が奏功した結果だが、それにしても1170万人というのはすごい数だ。裏を返せばコロナが蔓延しない普通の状態なら1170万人が貧困に喘いでいたということになる。米国社会の明と闇、いやはやとんでもない社会でもある。これは今朝ブルームバーグが配信した記事の感想だ。タイトルは「米で1170万人が貧困から脱却、政府のコロナ対策で=国勢調査局」、政府の公式調査がベースの記事だ。バイアスはかかっていないだろう。同調査局のリアナ・フォックス氏は「社会的セーフティーネットの重要性を如実に示している」と述べている。パンデミックが“救い”、これもまた歪な社会を象徴している。

米政府の支援を考慮した指標によると、20年の貧困率は9.1%と19年の11.8%から低下した。一方、政府支援などを含まない貧困率は11.4%と19年の10.5%から6年ぶりに上昇。仮にパンデミックなかりせば、米国の貧困率は上昇していたのである。それはそれとして、この記事にはもっと愕然とする事実が取り上げられている。パンデミック関連の支援を含まない米国の「実質的な世帯収入の中央値は、19年比2.9%減の約6万7500ドルとなった」とある。経済活動が停滞したわけだから世帯収入が減るのは致し方ないだろう。円に換算(110円)すれば743万円だ。平均の世帯収入がこの水準。なんとなく高い気がする。日本はどうか。ネットでググってみた。ちょっと古いが直近の2019年調査(2018年分)によると中央値は437万円とある。20年は当初からパンデミックに晒された。18年実績より増えることはないだろう。だとすると米国との差は300万円を超えている。

特別定額給付金で日本の貧困層が生活の豊かさを取り戻したという話は聞いたことがない。統計数字を見る限り日米の所得格差は広がっているように見える。ついでだから、日米の1人あたりGDPの値も調べてみた。IMFの最新統計(2020版)によると米国は6万3416ドルで世界第3位。日本は4万146ドルで英国に次いで第23位。ちなみに隣国・韓国は3万1497ドルで27位に迫っている。日米の差は2万3270ドル、日本円に換算すれば約260万円。統計がかならずしも実態を反映するわけではないということは承知している。それにしても国民に対する生活支援策を惜しみなく実行する米国と、思い切った対策を打っても国民生活が疲弊しているという声しか聞こえてこない日本と、どこが違うのだろうか。折から次期首相を決める自民党の総裁選挙が実施されている。派閥の駆け引きより政策の実効性を問いたいのだが、聞こえてくるのは永田町のドス黒い権力争いだけである。