先週、米英豪の3カ国が締結した新たな安全保障をめぐる枠組みをめぐって、西側陣営に不協和音が鳴り響いた。米英が豪州に対して原子力潜水艦の建造をめぐって全面的に支援する一方で、豪州がフランスと結んでいた潜水艦建造のための協力協定を破棄するという内容。フランスと豪州の契約の中には約650億ドル(約7兆1500億円)にのぼる契約が含まれているという。この契約が突然破棄されることになり、フランス側は烈火の如く怒った。発表があった翌16日には米国と豪州に駐在する大使を引き揚げるという、西側陣営内部での外交戦術としては極めて異例ともいうべき強行手段を発動した。これにEUも同調。フォンデアライエン欧州委員長が米英豪の三国のやり方に対して「許せない」と強く批判したほか、ドイツも21日に開いた外相会議でフランスへの連帯を表明した。

これまでの経緯を簡単に振り返ってみる。15日、米英豪の三国は「インド太平洋地域の平和と安定の維持」(産経Web版)に向け、新たな安全保障の枠組みを構築すると発表した。この枠組みの全容が明らかになっているわけではないが、表面化した論点は前記のような原潜をめぐる問題が中心になっている。これに対してフランスのルドリアン外相が即座に反応、「(豪州の)裏切り行為だ、怒りを覚える」と外交上極めて異例ともいうべき強い言葉で反撃した。そして翌日にはマクロン大統領の指示に基づいて、米国と豪州の駐在大使を召喚するという事態に発展した。怒りの根源は「聞いてない」(ルドリアン外相)。「(豪州は)嘘をついた」という点にあるようだ。豪州のモリソン首相は「(いろいろな会談を通して)フランスとの現状の枠組みに関する危機感を伝えていた」と防戦するが、一度火がついたフランス側の怒りは収まりそうにない。かくして価値観を共有するはずの西側陣営に強烈な不協和音が鳴り響く事態に発展した。

ロイターはこの事態に関連して、「契約を奪ったのがほかならぬ友人なら、そのいら立ちがいかほどかは想像に難くない」とフランスの立場を慮る配慮を見せた。だが、ビジネス・インサイドの情報によると英豪が秘密裏に交渉をはじめたのは今年の3月。情報漏れを防ぐためフランスを排除し米英豪の三国で隠密理に交渉が進められた。交渉の中心テーマは対中国包囲網。英空母エリザベスが東南アジア歴訪の旅に出たのもこの交渉と関連しているのかもしれない。英国は香港の前統治国。アジアに関してはフランスよりはるかに各種の情報に通じていると言われる。これに「まるでトランプのようだ」(ルドリアン外相)と批判されたバイデン大統領が乗った。フランスを騙してまで実行した「荒療治」の裏には、深刻な中国脅威論がありそうだ。いずれにしろ魑魅魍魎が蠢く国際政治の舞台裏。日本が騙されないことを願うばかりだ。