1970年代に世界中を席巻した「スタグフレーション(景気後退下のインフレ)」という言葉が、関係者の間で話題になりはじめている。ブルームバーグ(BB)が今朝配信した記事の見出しは「鳴り響くスタグフレーション警報、市場の関心はCPIと決算発表に」だ。知らないうちにスタグフレーションは「鳴り響いている」ようだ。ただ、鳴り響いているのはスタグフレーションではなく、「警報」という点が味噌だ。まだスタグフレーションではないが、このままいくとスタグフレーションになるというほどの意味だろう。良くも悪くも先へ先へと関心を巡らす市場ならびに市場関係者の認識行動からすれば、ちょっとした兆しから将来を読み取ろうとするのはある意味当然の思考といっていいだろう。市場が先読みしたインフレ懸念にFRBのパウエル議長が最近ようやく追いついてきた。先読みは当たらずといえども遠からず、核心を捉えていることもある。

インフレ懸念はかなり浸透した。コロナのパンデミックにはじまったサプライチェーンの圧迫、ワクチン接種を機に急回復に転じた需要、需給ギャップから品不足がはじまりモノの値段が急上昇した。代表的なのは自動車向け半導体。次が住宅向け建材だろう。テレワークの浸透で都心から郊外へ引っ越す人が急増。住宅需要が急回復して米国では木材不足が顕在化、ウッドショックが発生したのである。これにカーボンニュートラルの潮流が重なり、中国を筆頭に石炭や天然ガスが不足しエネルギー価格が急騰するという現象も起こっている。石炭から天然ガスへの移行を急ぐあまりに中国では停電が相次ぐという電力危機が発生した。電力がなくなれば世界の生産基地である中国の工場は生産活動が止まる。そうなれば必然的に物不足に拍車がかかる。モノが不足すれば値段は上がる。インフレの足音は着実に近づいている。

こうなると、デフレ脱却を目指してきた金融政策の柱ともいいうべき量的緩和政策も転換が迫られる。物価の上昇に連動して米国では国債の利回り(金利)が上昇、テーパリング(量的緩和の縮小策)が早ければ来月にも実施されそうだ。要するにゼロ金利政策の終焉が近づきつつある。ここで忘れてならないのが消費者心理だ。モノの値段が上がって金利が上昇すれば、普通なら仮需が発生する。ところが景気の先行きが心配になって、逆に、買い控えが起こる。こうなると典型的なスタグフレーションの発生だ。何やら不穏な雰囲気だ。最悪の事態が差し迫っている可能性がないこともない。同じ日にBBはFRB副議長のクラリダ氏の見解を記事にしている。「70年代は金融政策において極めて多くの政策ミスがあった。中央銀行はそこから教訓を得ており、そうした政策ミスが繰り返されることはないと」と。要するにスタグフレーションは怒らないとの御託宣である。果たして結果は……?