米民主党はバイデン大統領が掲げる巨額投資計画の財源として富裕税の創設を検討しているが、党内右派の反対や逆に左派の突き上げを喰らって二進も三進もいかない状況が続いている。こうした中で米コーヒーチェーン大手のスターバックスが2年以上勤続している米従業員の賃金を引き上げると発表した。富裕税の創設も賃金の引き上げも米経済好転の切り札とみるが、一方は政治的な駆け引きと思惑が交錯して合意に手間取っている。そんな中で賃上げは、労働力不足という危機をまえに経営判断でスパッと決まる。政治と経営の違いといえばそれまでだが、長い目で見れば経営者の決断の方が経済の好循環を生み出す推進力になりそうな気がする。翻って日本を眺めれば、総選挙の最中にありながら新しいし資本主義も賃上げの見通しも一向に定まらない。政治も経営も経済の推進力として役に立ちそうにない。

ロイターの報道によれば米上院民主党のワイデン財政委員長やウォーレン議員らが27日に提案した富裕税は以下のような内容になっている。3年連続で年収が1億ドル以上か資産が10億ドル以上の超富裕層が対象で、資産の含み益にも課税する。影響を受けるのはおよそ700人。株式など売買可能な資産の長期キャピタルゲインに対し、売却しなくても23.8%の税を課す。22年の課税年度からの導入を目指している。成立すればバイデン大統領の看板政策である気候変動・社会保障関連歳出法案の財源に充てられる。これに対してブルームバーグは民主党下院歳入委員会のリチャード・ニール委員長が、「超富裕層を対象とする増税案が検討対象から外されたと述べた」と伝えている。共和党の反対ではない。民主党内の反対で事態が膠着している。COP26への出席を前にバイデン大統領は党内合意を取り付けられるか、調整力が試されている。

スタバの賃上げは「少なくとも2年以上勤続の従業員の賃金5%、少なくとも5年以上勤続の従業員は10%それぞれ引き上げられる」(ロイター)というもの。「さらに従業員のリファラル(紹介)採用には200ドルの報奨金を支払う方針」(同)で、米外食業界が人手不足に苦闘する中、他社に先駆けて人材の確保に乗り出す。財源不足と労働力不足、同じ不足でも中身はまったく違うが、いずれの不足も米経済の行方に大きく関わっている。個人的には両方必要だと考えるが、政治的な合意を得るプロセスを考えると、先見の明がある経営者の“決断”に期待する以外に手はない気がする。日本では岸田首相が資産課税を早々に断念したほか、来るべき春闘でも大幅賃上げは期待しづらい状況。いま日本に必要なのは、スタバのCEOであるケヴィン・ジョンソン氏のような、決断できる経営者かもしれない。