バイデン大統領が備蓄原油の放出を決めた。少し前からその意向を示していたが、決定まで時間がかかった気がする。放出するのは米国だけではない。中国、インド、韓国、英国、日本も含まれる。高騰する原油価格の低下を目指した石油消費国連合の結成だ。バイデ大統領は記者会見を行い、「ガソリン価格は『間もなく』下落する」と大見えを切った。協調外交を旗印に掲げる同大統領のひさびさのクリーンヒットか。と思いきや、今朝のメディアの評価は予想以上に手厳しい。産油国が減産すれば“万事休す”だ。産油国と消費国の対立を増幅するだけで、肝心の原油価格の安定にはつながらない。岸田首相も今朝、米国に追随すると表明した。今後の価格次第だが、バイデン大統領の指導力は消費者向けのパフォーマンスになりかねない。

放出量は米国が5000万バレル、インドが500万バレル、それ以外の国は500万バレル以下の見込み。放出量が全体的に少なめで、取り崩した分はいずれ埋め合わせることになっている。長い目で見た原油の需給は変わらない。放出時期は定かではないが、米国で12月下旬ごろになるとみられている。原油不足はいま消費者の懐を直撃している。価格が下がるにしろ時期は先になりそうだ。それまで消費者は待てるか。ロイターによると、アラブ首長国連邦(UAE)のマズルーイ・エネルギー相は23日、「来年第1・四半期に原油市場が供給過多になると全ての指標で示されている」と強調した。産油国側の牽制球だとしても、「全ての指標」というのが気になる。OPEC+は12月2日に総会を開くが、現在進めている段階的減産を停止する可能性もあると見る。

原油はもともと高く売りたい産油国と、安く買いたい消費国が対立する戦略物資だ。ロイターによるとインド政府は声明を発表、「産油国によって石油供給が需要より少なくなるよう人為的に調整され、それが価格上昇などの悪影響をもたらしていることに繰り返し懸念を表明してきた」と述べている。原油価格の支配権は産油国側にある。バイデン大統領の放出戦略は、消費国の団結力によって産油国側に握られている価格支配権を取り戻そうという狙いだ。素人目にもそれが成功するとは思えない。現にきのうニューヨークの原油先物市場では北海ブレント、WTIとも高値をつけて引けている。協調外交が単なるパフォーマンスにすぎないとすれば、バイデン大統領の支持率は当面回復しないだろう。