けさのニュースで興味を引いたのは次の記事。「財政主導で物価2%、インフレ率で規模調整=西田・自民財政政策検討本部長」。2021年12月6日5:21付でロイター日本語版が配信している。ロイターが実施したインタビュー記事だ。日本の他のメディアには掲載されていないロイターの独自ダネ。内容は財政再建路線の是非を問うもの。けさもメディアにはさまざまな記事が掲載せれている。そんな中で個人的には一押しの記事だ。自民党が新たに設置した財政政策検討本部長に就任した西田昌司衆院議員は、「財政支出の規模はプライマリーバランス(PB、基礎的財政収支)の状況ではなく、インフレ率で調整すべき」との認識を示している。MMTに則った主張だが、この本部は最高顧問が安倍元首相、顧問に高市政調会長が就任している。なにやら自民党内に財政再建路線転換の“風”が吹き始めているようにみえる。

西田氏はこのインタビューで大胆な主張を展開している。曰く「大事なのは長期的なインフラ整備や医療計画、研究開発、人材育成などの計画を立てることだ」、「4─5%程度までのインフレ率は許容範囲」、それを超える場合は「財政拡大の量を減らしていくなり、税率を上げるなり、増税するなり、調整の仕方はいろいろある。PBではなくインフレ率で調整するべき」と述べている。自民党は安倍政権が民主党(当時)から政権を奪還したあとデフレ脱却を「一丁目一番地」の政策目標に抱えたが、それを遂行するための手段は日銀の超金融緩和政策に委ねてきた。デフレ脱却は本来金融政策と財政政策が車の両輪となって実現するものだが、財務省のなりふり構わぬ抵抗にあって、財政健全化とデフレ脱却を同時並行的に推進するという選択を余儀なくされた。これはアクセルとブレーキを同時に踏むようなもの。デフレ脱却どころか景気回復の足を引っ張ったのである。

財政政策検討本部長に就任した西田氏にはこの記憶が鮮明に残っているのだろう。コロナによって日本の財政は意図せざる拡大路線に踏み出している。矢野事務次官を擁護するつもりはないが、この財政拡大路線には不要・不急な支出がかなりの規模で混ざっている。それ以上に問題なのは金融政策一辺倒ということだ。本来日銀はこうした政策を拒否すべきだと思うが、黒田総裁になってもう9年近く、効果のまったくない超金融緩和政策にこだわり続けている。この問題に西田氏は真っ向から論争を挑もうとしている。先ごろ開かれた検討本部の会合では、両脇を安倍元首相と高市政調会長が占めていた。党内論戦に狼煙が上がったということか。自民党に旧来からある「財政健全化推進本部(本部長:額賀福志郎氏)はこれにどう対応するのだろうか。コロナ禍でいまは前者に勢いがある。だが財政再建論者も雌伏の時を過ごしているに過ぎない。時いたれば復活する。日本はどっちに進むべきか。究極の選択だ。個人的には「インフレ調整」に有効な手段があれば前者を選択すべきだと思う。