「マグロの王様」と呼ばれるクロマグロの価格が下がるかもしれません。

資源管理を話し合う国際会議で日本が求めてきた漁獲枠の引き上げが決定しました。

日本が漁獲できる量が大幅に増加

中西部太平洋まぐろ類委員会の会議は、今月1日から7日までオンライン形式で開かれ、日本やアメリカ、パプアニューギニアといった島しょ国が参加しました。

会議で焦点となった太平洋クロマグロの資源は回復傾向にあるとして、日本近海を含めた中西部太平洋での大型のクロマグロの漁獲枠を15%増やすことで正式に合意しました。

これによって2022年日本が漁獲できるクロマグロは732トン増えることになります。

また小型のクロマグロの漁獲枠の10%分を大型魚に振り替えられる措置の活用によってさらに188トン増えることになり、太平洋での全体の漁獲枠は920トン増加することになります。

一方、小型のクロマグロについては現在の漁獲枠を維持するとともに、メバチやキハダなどについてはいまの資源管理を2年間継続することになりました。

水産庁は、今後、審議会で各都道府県などへの割り振りを議論することにしています。

水産庁「日本の漁業者が資源管理に取り組んだ結果」

太平洋クロマグロの資源について水産庁は回復傾向にあると主張してきました。

水産庁によりますと太平洋クロマグロの親の魚の資源量は1990年代後半は5万トン以上ありましたが2010年には1万トン余りにまで減少。

しかし、徐々に資源量が回復し、2018年にはおよそ2万8000トンになったと説明しています。

水産庁の高瀬美和子審議官は記者会見で「これまで増枠の提案をしてもなかなか認められなかったが、長年、日本の漁業者が資源管理に苦労しながらも熱心に取り組み資源が回復していることが国際的にも認められた結果だ」と述べました。

交渉のいきさつ 去年まで3年連続で合意に至らず

マグロは高級マグロとしてトロなどに使われるクロマグロとミナミマグロと大衆マグロとして赤身などに使われるメバチとキハダ、ビンナガに大きく分けられます。

クロマグロは世界的に需要が増えて乱獲による減少や枯渇が懸念されていることから各国が連携して太平洋と大西洋などで資源の管理に取り組んでいます。

このうち大西洋クロマグロの資源管理を行う国際機関は、資源が回復しているとして、先月、西大西洋での2022年の漁獲枠を16%増やすことで合意しました。

一方、日本近海を含む太平洋のクロマグロについては「中西部太平洋まぐろ類委員会」で毎年、国や地域ごとに漁獲枠が決められてきました。

委員会では資源の減少を受けて、漁獲枠の削減を行ってきました。

2014年には世界の野生生物の専門家などでつくるIUCN=国際自然保護連合が「絶滅する危険性が増大している」として太平洋クロマグロを絶滅危惧種に指定し、資源保護を求める声が高まりました。

この翌年の2015年、委員会は重さ30キロ未満の小型のクロマグロについて年間の漁獲量を2002年からの3年間の平均に比べて、半分に抑えるという規制を設けました。

また2017年には重さ30キロ以上の大型のクロマグロについて年間の漁獲量の上限を2002年からの3年間の平均とすることになりました。

こうした漁獲規制によって資源は回復傾向にあるとして、日本は2018年の会合で漁獲量の上限を15%引き上げるよう提案しました。

これ以降去年まで3年連続で引き上げを提案し続けましたが、アメリカなどの反対でいずれも合意には至りませんでした。

そして、4年目のことしは夏から開かれた委員会の下部組織の会合で、引き上げを提案する日本の主張が一定程度認められ大型のクロマグロの漁獲枠を15%増やすことで合意されました。

NHKの水中カメラがマグロの大群を撮影 資源の回復傾向か

北海道の沖合ではクロマグロの大群が泳ぐ姿をNHKの水中カメラが捉え、専門家は「大きな群れが撮影されるのは非常に珍しく、資源が回復傾向にある状況をあらわしているともとらえられる」と指摘しています。

クロマグロの大群はことし9月、北海道松前町の沖合2キロの海域で撮影されました。

NHKの取材班はまず上空からドローンのカメラで白く波立つ海面を飛び跳ねる黒い魚の姿を確認しました。

そして、水中に潜ってみると、クロマグロの巨大な群れがいました。

マグロの多くは大きさ1メートル以上で、群れは数千匹に及ぶとみられ、見渡すかぎりの大群になって悠然と泳いでいました。

映像を見たマグロの生態に詳しい水産研究・教育機構水産資源研究所の藤岡紘主任研究員は「資源が回復傾向にあるのでこういった大きな群れと遭遇する機会が増えているのかもしれない。資源が回復傾向にある状況をあらわしているともとらえられると思う」と分析しました。

今回の漁獲枠の増枠については「漁業規制などで漁獲量が減って資源は回復してきているが、歴史的な平均値よりはまだ低い水準にある」と資源量の現状について述べたうえで「撮影されたマグロは2歳ぐらいの未成熟な魚が中心だと思うが、1年もすれば産卵を開始することになる。資源の回復に向かって産卵させることが非常に大事なので、引き続き適切な資源の管理をやっていく必要がある」と指摘しています。

資源を残しながら漁をするための最新技術の研究も

クロマグロなどの資源量をより正確に把握し、持続可能な漁の実現につなげようと、北海道大学は高精度の魚群探知機を使って魚の種類や数などを計測する研究を進めています。

北海道大学の宮下和士教授は、主に漁獲量から推定されているクロマグロなどの魚の資源量をより正確に把握しようと、高精度の魚群探知機を使って群れで泳いでいる魚の種類や数、大きさを計測する研究を行っています。

研究では大型の水槽にサバやイワシなどを入れて従来より精度が高い魚群探知機を使って、水中に送った超音波の反応から泳いでいる魚の姿を捉えて解析します。

この魚群探知機は、従来の探知機が魚の群れを塊として画面に表示するのとは違い、多くの超音波を送ることなどによって、群れの中にいる1匹1匹の魚の姿を捉えてうつし出せます。

将来的には魚の種類や、より正確な数、それに大きさも判別できるようになるということです。

研究が実用化され多くの船に搭載されれば、クロマグロなどの資源量の正確な把握だけでなく、繁殖できるようになる前の小型のマグロが捕獲されるのを防ぐこともできるようになり、持続可能な漁の実現につながると期待されています。

宮下教授は「多くの漁船に搭載され、情報を集めることができるようになれば漁場が可視化できる。どれだけの資源があるか漁業者に情報が共有されれば、どれだけ捕っていいか判断する際に役立つ」と話しています。

青森県大間町 漁協「非常に喜ばしい」

中西部太平洋での大型のクロマグロの漁獲枠が増えることについて青森県大間町で60年以上マグロ漁を続けている小鷹勝敏さんは「最近は天気がよくても漁獲枠で制限されるため漁に出られない日も多かった。漁獲枠が増えるのは非常に喜ばしいと思う。枠が満足に持てない漁師もたくさんいたので大変ありがたいです」と話していました。

高知県宿毛市 漁協「新型コロナで厳しい中 増加はうれしい」

大型のクロマグロの漁獲枠を15%増やすことが正式に合意されたことを受けて、高知県内で有数のマグロの水揚げを誇る宿毛市の漁業協同組合では、漁獲枠の拡大に期待する声が聞かれました。

国はクロマグロの資源を保護するため全国の都道府県ごとに漁獲量の上限を設けていて、高知県では年間の漁獲量の上限を大型と小型のマグロ、合わせて106トンほどに定めています。

高知県内有数のマグロの水揚げがある宿毛市のすくも湾漁協の浦尻和伸組合長は「新型コロナの影響もあり、厳しい状況にある漁業者にとってマグロの漁獲枠の増加はとてもうれしい。今後、増加した漁獲枠が各都道府県に配分されると思うが、現状では高知県への漁獲枠の配分が足りていない状況にあるので配慮してほしい」と話していました。

北海道松前町 漁協「一本釣りでごはんを食べられるぐらいに」

年間の漁獲枠が200キロと決められている北海道松前町の松前さくら漁業協同組合まぐろ一本釣り部会の伊川俊幸部会長は「枠増えるということはいいことなんだけどマグロ増えてるから増やしてもらわなければ困る。一本釣りの枠は微々たるものだから、配分を平等に、一本釣りをごはんを食べられるくらいにしてほしい」と話しています。

一本釣り漁業者 歓迎も漁獲枠の配分考慮を求める

松前さくら漁業協同組合によりますと、松前町のまぐろ一本釣りの漁業者はことし1年間の漁獲枠が200キロに抑えられています。

国際会議の結果、日本が漁獲できる量が増えることについて「松前さくら漁業協同組合まぐろ一本釣り部会」の伊川俊幸部会長は「マグロの漁獲枠が増えることはいいことだ」と歓迎しています。

一方で「巻き網漁などの沖合漁業と比べると一本釣りの漁獲枠の割り当てがもともと少ないためほとんど増えないと思う。一本釣りの漁業者が生活できるように漁獲枠の配分を考慮してほしい」と求めています。